目次
「おーい、雨が降るぞー」
●『キツツキと雨』(2011)
「今日は晴れてよかったね」
「でも、夕方から雨が降るみたいだよ」
そう言って、二人で見上げた空。確かに、雲行きが怪しい。…こんな風に、誰かと空を見るなんて、久しぶりかもしれない…。
大切な友人と天気を想って空を眺めた時間。そんな、何かと何かの間にあるような、でも振り返ってみると私の人生にとって大事だった「隙間の時間」を思い出させてくれた映画があります。
『キツツキと雨』は、山で木こりとして働く60歳の克彦(役所広司)と、その山村にゾンビ映画の撮影に来た25歳の新人監督・幸一(小栗旬)の交流を描く映画です。住んでる世界も、見えている世界も異なる二人が、「映画づくり」を通してお互いに影響し合い、変化する姿が描かれます。
二人は映画の撮影が終わると、何事もなかったかのように、いつもの生活に戻っていくのですが、でもそれは二つの点が交わったからこそ次に広がった道でもあるだろうなと…。
人生には雨宿りのような時間が時には必要。スキマ時間を、ただ雨が上がるのを待つように、人生の隙間としてゆっくり過ごしたくなる映画でした。
(小原明子)
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心を整える一人の時間
●『有村架純の撮休』(2020)
生活する中で、たびたび訪れるスキマ時間。そんなときこそ、自分の心を整えるにはうってつけだと教えてくれたドラマがあります。
『有村架純の撮休』は、「女優・有村架純に突然休日が訪れたら…」という妄想を、是枝裕和や今泉力哉、山岸聖太、横浜聡子といった映画・CMなど各界を代表するクリエイターが、本人主役で描いたオムニバスドラマです。有村さんの8つの架空の休日を、一話完結のフィクションで切り取っていきます。
突然できた休日は、地元へ帰って家族と向き合ったり、人間ドッグで身体の検査をしたり、バッティングセンターで思わぬ出会いがあったり…。「女優」でなく、「一人の人間」として休日という隙間の時間を過ごす有村さんは、大切な人と向き合いながら心を整えていきます。
各話30分(第1話のみ40分)で、これといって大きな出来事も起きないのですが、何気ない日常やその中で交わされる会話が心に染み入り、まるで有村さんと一緒に休日を過ごしこちらの心が整うような心地にも。
一息付くのも忘れ、いつの間にか自分を見失いそう…。そんな時には、ゆっくりコーヒーでも飲みながら本作を観て心を整えてはいかがですか。
(鈴木健太)
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7分間のゾンビ映画で、極上の映画体験を
●『CARGO』(2013)
次の電車を待つまでの時間、待ち合わせ場所に早く着すぎてしまったときの待ち時間、お料理の煮込み時間…そんな「手持無沙汰な時間を有効に使いたい」ときにぴったりの、7分間で観ることができるショートフィルムがあります。
ショートフィルムってまだまだ馴染みがない人も多いかもしれません。わたしもその一人だったのですが、この作品を観て「ショートフィルムってこんなにも面白いんだ」と衝撃を受けました。
それが、オーストラリアで行われている世界最大級のショートフィルムフェスティバル「TROPFEST」で、2013年のファイナリストに残り、当時YouTubeで1千万回以上再生された話題作『CARGO』です。
Cargo – short film from Daniel Foeldes on Vimeo.
未知のウイルスに感染し、残された時間はわずかであるという運命を悟った一人の父親が、小さな我が子を助けるため選んだある行動に、思わず涙が止まらなくなってしまうゾンビ映画。「ゾンビ映画」ですが、ゾンビをバタバタ倒すスプラッターさはなく、とても静か。台詞もほとんどありません。それなのに、退屈することもなければ、台詞がなくて物語が理解できないということもなく、とてもすんなりとその世界に没入できてしまいます。のちに本作は、Netflixでマーティン・フリーマン主演で長編映画化されました。
「忙しい、2時間はとれない。けれど、映画を観たい!」という人は、私も含めてたくさんいるのではないでしょうか。そんなときにも、「映画っていいな」を体感できるのがショートフィルムの良さの一つなのかもしれません。『CARGO』を入り口にその魅力を体験してみるのはいかがでしょうか?
(大槻菜奈)
聖域バチカンをドラマで観光
●『ヤング・ポープ 美しき異端児』(2017)
●『ニュー・ポープ 悩める新教皇』(2020)
この1年ほど、旅行ができる幸せを思い知った時はありません。暇ができても、まだまだ出かけづらい今。行き先が海外ならなおさらですが、その旅行欲を満たせるぞ!とハマったドラマシリーズがあります。
それが、『ヤング・ポープ 美しき異端児』と、続編の『ニュー・ポープ 悩める新教皇』。 現代のバチカンを舞台に、それぞれ新しく教皇に選出された男の顛末を描いています。ジュード・ロウ演じる、美しく若く野心的なピウス13世と、ジョン・マルコヴィッチ演じる、渋々教皇になった繊細なヨハネ・パウロ3世。謀略うずまくバチカンで、教皇という難役を通して、自身の過去と向き合っていく二人の姿は見ものです。
両作で監督・脚本を務めたのは、『グレート・ビューティー 追憶のローマ』(2013)でアカデミー賞外国映画賞を受賞した、イタリアの巨匠パオロ・ソレンティーノ。芸術性の高さで評価されてきた監督の作品だけに、システィーナ礼拝堂やサン・ピエトロ寺院を本物と見間違うほど忠実に再現したセットや、教皇や枢機卿たちの法衣を中心とする数々の豪華な衣装には度肝を抜かれます。
フィクションとはいえ、聖域バチカンを覗き見ているような、ディープな観光気分に浸れる2作。また自由に出かけられる日を夢見て、この夏は今作をはじめ、各国の映画やドラマに没頭しようと思います。
(川口ミリ)
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韓国のエンタメに潜む熱の塊
●『スウィング・キッズ』(2018)
朝から雨が降っていたその日、気分が楽しくなるような映画を求めていた私は、“寄せ集めのタップダンスチーム!”のコピーに惹かれてカン・ヒョンチョル監督の『スウィング・キッズ』を再生しました。でもその時、完全に見落としていたのです。“激動の1951年”という、もうひとつの言葉を。
朝鮮戦争中の巨済(コジェ)捕虜収容所を舞台に、急遽結成されたタップダンスチーム。前半は、ダンスに魅せられていく彼らの姿を痛快に描いていくのですが、後半からは、戦争や社会的思想の対立が物語に暗い影を落とし始め、ラストでは心臓が凍るほどショッキングな展開に…!時間を潰そうと気軽に見始めたはずが、あまりの衝撃に夜まで放心状態になりました。
主人公を演じたアイドルグループEXOのド・ギョンスは、その後韓国の徴兵制により入隊したのですが、この映画での、反骨精神の塊のような彼の目は、何よりも記憶に焼き付きました。
ここ数年、韓国のエンタメにどっぷり浸かっている私ですが、ドラマやK-POP、アートなど、どの分野を追いかけても必ず背景に見えてくるのが、戦争の存在です。それが未だに自分たちの生活と地続きであるという事実、緊張感や葛藤から炙り出される熱の塊が、この国の表現とどこか結びついている。ワクワクやときめきで心を緩ませていると、いつもその事実を突きつけられるのです。
(安達友絵)
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