PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば

今月の編集部の声

部屋にある映画や本を通して、
「わたし」と再会する

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「今日は昼前に雨が降るでしょう」
ラジオから雨予報が聞こえたので「その前に」と、いつものスーパーへ買い物に出かけました。お店に入ると、「初夏のメニュー」と大きく書かれたチラシが張り出されていて、「…そうか、もう世間は初夏なのか…」と自分から季節感が失われていたことに気づきます。店内をぐるっと見渡すと、色紙でつくられた鯉のぼりが飾られていて、その隣には小さい向日葵が一本150円で売られているのが目に入りました。普段なら自分で花を買うことなんてほとんどないのに、「これは買うしかない」となぜか使命感にも似た気持ちが湧き上がり、いま我が家の玄関には、クリーニングに出しそびれたコートと向日葵が一緒に並んでいます。

PINTSCOPE編集部がテレワークに切り替わってから、1ヶ月が経とうとしています。最初は、この家の中で全てが完結してしまう毎日に適応しようと必死だったのですが、今となっては、ずっと前からオンライン会議をし、この小さい机で作業をしていたような気がするから不思議です。

この部屋が、私の世界のほとんどになってしまったいま、わたしから外に向かっていた矢印〔→〕は、ぐるーっと180度回転し、「わたし」〔←〕を指すようになりました。自分の部屋に向き合っていると、なんだかわたし自身に向き合っている気がします。

いつだか、編集部のメンバーで連載「DVD棚、見せてください。」について話した際、こういう話題になったことがあります。「自分のDVD棚には、“いま”の自分ではなく、“ある一時期”の自分が収められている。そして、それらは“黒歴史”であることもままある」。
そういえば、クリエイター・安藤晶子さんのDVD棚を取材した際、安藤さんが「(DVD棚は)自分が作り手として、またひとりの人間として辿ってきた道筋が赤裸々に表れているので、人に見せるのは少し恥ずかしい…だからこのDVD棚は、いわばわたしの“卒業アルバム”のような存在かもしれません」とおっしゃっていました。そんなことを思い出しながら、部屋にある自分の棚に収まった映画や本やCD、服や靴や食器、などを見つめてみると、確かに“思い出したくない過去”も含めて、「これまでの」わたしがそこにいます。

わたしは、いま、わたしと再会しているのです。
そして、わたしは、こういう「不要不急」のものたちを心の栄養にしながら、生きてきたのだなと実感します。

最近よく思い出す言葉があります。「おしえて!みんなの映画デート」で取材した、ヴィヴィアン・リーと渥美清とカトリーヌ・ドヌーヴとジャン・ギャバンが好きな82歳のご婦人の言葉です。
その方は、これまで自分の人生を彩ってきた様々な映画と体験についてお話しくださいました。母親が映画好きで子供の頃から国際劇場や王子100人劇場に通ったこと、空襲警報の鳴るなか映画館で映画を観たこと、夫と初めてデートしたのが映画館だったこと、『男はつらいよ』が好きで中央郵便局に特製ハガキを買いに行ったこと、足が弱ってしまったから映画館に行けないのがいま一番寂しいこと。
わたしたちは、82歳になるご婦人が、子供の頃に観た映画のことを、ついさっき観たかのように語られる姿に大変驚きました。そのことを伝えると、「最近はなんでもよく忘れてしまうけれど、大好きな映画のことは、観たときのことも含めてよく覚えているわね。こうやって誰かにお話ししたり、思い出したりしてまた楽しめるし。そう考えると、わたしの宝物かもね。」とおっしゃったのです。

「なんでも忘れてしまうけど、映画のことはよく覚えている」……わたしの深くに留まり、ふと浮かび上がっては反芻する言葉になりました。

文化とは、映画とは、人にとって、社会にとって、何なのでしょうか? これまでの記事を読みながら自問自答する日々です。そこで、PINTSCOPEは新たに「映画を観た日のアレコレ」という連載を始めます。映画を観た日、どんなことをして、どんなことを思ったのかを、様々なクリエイターに日記形式で綴っていただく連載です。文化に携わる方が、映画を通して“いま”何を思うのかを記録する。そのことで見えてくる文化や映画の姿があると思います。

社会が大きな「変容」にある中、見えてくる文化や映画の姿。さて、どんな姿をしているのでしょう…。新連載「映画を観た日のアレコレ」、ご期待ください。

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