PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の大切な映画があれば…人と映画の物語
卒業して、君と。

大下ヒロトのいつかの君とつながりたい。第6回

卒業して、君と。

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(Instagramで発信する「大下ヒロトの青春日記」が話題の俳優・大下ヒロトさん。いいことも悪いことも世間に惑わされず等身大の言葉で綴り、そこから感じるまなざしの懸命さは心震えるものがあります。映画好きな大下さん。隔月でテーマに馳せる思いと映画を綴るコラム、今月のテーマは「卒業」です。)

アルバイトが終わり、最寄駅に着くと久し振りに近所のガールズバーのキャッチをしている女の子と会った。

彼女との出会いは半年前だった。

ガールズバーの前を通らなければ家に帰れなくて、すれ違う度に、少しずつ仲が良くなった。映画が好きみたいで、道端で好きな映画について語った日もあった。

そんな彼女と偶然再会した。

「久しぶりだねー。元気してた?」

「元気元気。まだこの辺住んでたんだね。」

「そうそう。」

「あ、渡したいものあるんだった!」

そう言って彼女はガールズバーの中に戻り、紙袋を持ってきてくれた。

チョコだった。そうだ、バレンタインだ。

お店の前の通りには、他のガールズバーの女の子達とか、仕事帰りのサラリーマンとか、色んな人達がいるのに、2人だけに感じた。周りがスローモーションに見えて、彼女だけが僕と同じ時間にいた。

懐かしい気持ちになった。中学生の頃、同じ気持ちを感じたことがある。

中学の頃、全くモテてなかった僕は、友達たちが女の子にチョコを貰ってるのをひたすら横で眺めてた。女の子が寄ってきても、毎回チョコを渡されるのは隣にいる古橋くんだった。

古橋くんは身長も高くて、陸上も全国大会に行ってる、「THEモテ男」だった。

よく古橋くんのチョコを学校帰りに分けてもらってた。

そんな中、僕はとある噂を嗅ぎつけた。

どうやら後輩が、僕にバレンタインを渡したいらしい。

昼休み、多目的ルームで卓球をしてると、噂のその子が、僕らの周りを行ったり来たりしていた。

そして、その子の友達に呼ばれて、チョコが入ってるらしい袋をもらった。

この時も同じだった。スローモーションになって、周りの友達たちの声が聞こえなくなった。緊張して震えてる手。夕焼けみたいに真っ赤な頬。僕はその子の事しか見えなくなっていた。

カッコつけて「ありがとうね」なんてクールに言ったけど、その女の子がいなくなってから僕は顔を真っ赤にして、学ランの上着の中に袋を隠して(中学はバレンタイン禁止でチョコが見つかると先生に怒られてしまうから)

教室まで走ってカバンの中に入れた。

バレンタインはどうしてあんなに特別なんだろう。20歳になった今では、もちろん学校も行ってないしチョコをもらう機会なんて滅多にない。だけど、バレンタインの日のインターホンの音はドキッとする。玄関の扉を開けたら、誰かがチョコを届けてくれるような気がして。

(まあそんな事は絶対に無いんですけどね。)

最近、北野武監督の『キッズ・リターン』(1996年)という映画を久しぶりに見た。

この映画は、高校を卒業したシンジとマサルの再会から始まる。

卒業してから、会わなくなった2人は少し気まずそうにも見える。

僕もそうだった。どれだけ仲の良い友達でも、高校卒業して会わなくなると、やっぱり関係性は変わってしまう。その変化が僕は少し悲しかった。

この間地元に帰った時、久しぶりに中学生の頃にチョコレートを貰ったあの子に会った。

少し酔っ払った様子の彼女は、こう言った。

「ヒロト先輩! 覚えてるんですかぁ? バレンタインもあげたし、第3ボタンも貰ってるんですよぉ~。第2ボタンは貰えなかったけど(笑)。 あれまだ大切にとってるんですよね」

中学生の頃の僕の制服のボタンが、まだこの子の机の中とかに大切にとってある。

僕は嬉しかった。

その時、僕も少し酔っ払っていて、「君は僕のトーテムだ!」と言ったらしい。

トーテムというのは映画『インセプション』(2010年)に出てくる、自分が今いる場所が夢か現実かを見極める道具の事で、そんなことを酔っ払って言ってしまった。

彼女は「トーテムって何? ねえ、トーテムって何?」と近付いてくる。

「とにかく、あなたはそのままでいてくれ!」

「意味わかんなぁい。」

多分嬉しかったんだと思う。あの頃のままで。

そういえば、この間地元に帰った時、「THEモテ男」だった古橋くんとも会ったんだった。

僕らがお酒を飲んでると、居酒屋で古橋くん達と偶然会い、一緒に飲むことになった。

「ヒロト、本当にすげえなー。まじで応援してるよ。」

「いやぁ、まだまだだよ」

「ヒロト、写真撮ろうよ」

「まあいいけど。」

古橋くんが、僕の事を褒めた事なんて一度も無かった。

そんな彼が、僕の事を褒めて写真まで撮ろうと言ってくるんだ。

お前はずっと俺の事をいじってればいいのに。いじってて欲しかったのに。

そんな事を最初は思ってたけど、帰り道、お酒に酔った古橋くんは

「大人になって、お前と酒が飲めて本当に嬉しいよ」と言い、後ろから抱きついてきた。

もう本当に気持ち悪かった。そんな事絶対しないような奴なのに。

なのにどうしてか分かんないけど、急に涙が出てきそうになったから、必死に堪えた。

多分嬉しかったんだと思う。あの頃とは全く変わっていて。

高校生の時、一度『キッズ・リターン』を観たことがある。

でも、当時はあんまり好きじゃなかった記憶があるが、今では大好きな映画に変わった。

『キッズ・リターン』のラストシーンのあの台詞が今の僕の全てだと思った。

変わらずにいてくれた人。変わってしまった人。そんなの関係ない。僕らはまだ始まってもいないのだ。

大下ヒロトのいつかの君とつながりたい。 第6回 「卒業して、君と。」
大下ヒロトのいつかの君とつながりたい。 第6回 「卒業して、君と。」
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FEATURED FILM
監督・脚本:北野武
出演:金子賢、安藤政信、森本レオ、山谷初男、柏谷享助、大家由祐子、寺島進、モロ師岡、北京ゲンジ、芦川誠、津田寛治、平泉成、大杉漣、下條正巳、丘みつ子、石橋凌
1996年公開の、北野武監督の長編第6作で、金子賢と安藤政信主演による青春ドラマ。問題児の高校生・マサルとシンジは、カツアゲした高校生が呼んだ助っ人ボクサーにKOされる。それを機に二人は一緒にボクシングを始める。本作がデビュー作で、演技をするのが初めてだった安藤政信は、「北野監督は1回テスト、1回本番しか撮らないので、失敗でもOKだった」「監督のメソッドがスタンダードと思っていたから、次回作では苦労した」という初々しいエピソードを、のちのインタビューで語っている。
PROFILE
俳優
大下ヒロト
Hiroto Oshita
1998年生まれ、岐阜県出身。オフィス作所属の俳優。2016年に上京し、翌2017年、映画『あみこ』でデビュー。同作が第 68 回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品、ぴあフィルム・フェスティバル(PFF)にて観客賞、下北沢映画祭グランプリを受賞するなど話題に。近作に、ドラマ『電影少女-VIDEO GIRL MAI 2019-」』(TX系)、『ストロベリーナイト・サーガ』#11、12(CX系)、『TWO WEEKS』(KTV・CX系)をはじめ、映画・TV・ミュージックビデオなどに出演。
待機作に、映画『アイネクライネナハトムジーク』(2019年9月20日公開)、『転がるビー玉』(2019年公開日調整中)等など。
デビュー前よりInstagramで公表している「大下ヒロトの青春日記」が話題を集めている。
Instagram: @hiroto_mitsuyo