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タイムマシーン

大下ヒロトのいつかの君とつながりたい。第13回

タイムマシーン

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(Instagramで発信する「大下ヒロトの青春日記」が話題の俳優・大下ヒロトさん。映画好きな大下さんが、隔月でテーマに馳せる思いと映画を綴るコラム。こんな時だからこそ、気持ちだけでも遠くへ行きたいあなたへ、今月のテーマは「思い出」です。)

映画『バタフライ・エフェクト』を初めて観たのは高校2年生の頃だ。それから僕は、1年に1回のペースでこの映画を観ている。こんなにも観ている理由は、純粋に昔からタイムリープ系の映画が好きだから。そして、『バタフライ・エフェクト』はタイムリープ系の映画の中でも、喜びと悲しみと儚さの数値がちょうどいい。観終わった後にいつも、「過去に戻ったらなにをしようか」と1人で妄想をするのだが、あの時間が好きだ。

まぁそんなことを思ったところで、現在の科学ではタイムマシーンは作り出せない。(存在していたとしても、何者かによって隠されている)

というわけで、このコラムの中で小学生時代に戻り、4年間に渡る大恋愛をやり直そうと思う。

なぜこんなにも長かったかというと、僕がなんのアプローチも出来ずにいたからだ。そして僕はさえない奴だった。朝のキックベースでは、圧倒的な運動音痴のせいで、いつもバントしかしなかった。そのせいで、リーダーがチームメンバーを決める「とりっこじゃんけん」では最後まで残り、参加者の数が奇数の場合は、僕がチームにいるのかいらないのかを決める、「いる・いらんし」という謎の“し”が入った地獄のじゃんけんが始まる。そしてじゃんけんに勝った奴は、0.5秒も経たないうちに、「いらん」と言う。これが、毎回行われるのがお決まりになっていた。そして僕はいじられキャラになっていくのだった。第一前提として、いじられキャラはモテないのだ。しかし、キックベースに参加しないという道を選べば、僕は男子たちから嫌われてしまうのだ。回避方法はない。

ある日、そんなキックベースをしている昼休みの間に事件は起こる。僕は相変わらずのバントだったが、相手チームのエラーで2塁に行くことができたのだ。校舎を見れば、窓から、女の子達が僕らの試合を見ていた。その中に、僕の好きな女の子がいたのだ。次のバッターがゴロを打った瞬間、僕は走った。なにも考えずに走った。バッターが1塁でアウトを取られた時、僕は既に3塁を通り越して、ホームベースへ全力疾走。ボールを持っているのは、クラス1、速い球を投げる高木くん。彼がボールを投げて、そのボールは真っ直ぐに僕の足に当たる。しかも当たっただけではなく、全速力で走っている僕の足と足の間に挟まる。一瞬、飛んでいた気がした。僕は、ホームベースを飛び越えて、奥の岩に激突。頭から血が出ている。保健室の先生にタンカで運ばれている僕は、自然と上を向くことしかできない。上を向けば、青い空と、窓から心配そうに覗くあの子の顔。僕が笑いかけると、笑い返してくれたあの顔。

過去に戻ろう。バタフライ・エフェクト!

大下少年よ。3塁から、ホームベースに走っている時、思いっきりジャンプをするのだ。そうすれば、高木くんのボールを避けることができ、君はホームに帰れるだろう。そして、きっとそんな姿をあの子が窓から見ているだろう。

でも、ちょっと待ってくれ。この状況が全くイメージできない。どうしてだろう。よく考えるのだ。高木くんはなんであんなにボールを投げるのが速いのだろうか?そうだ。彼は昔からずっとドッチボールのクラブに入っていたからじゃないか。彼はボールを早く投げるだけではない。コントロール力だって抜群なのだ。僕がジャンプしたところで勝てる相手ではない。今度は頭にボールが当たりもっと大変なことになる可能性だってある。

過去に戻ろう。バタフライ・エフェクト!

大下少年よ。3塁で止まるのだ。

他にも、今でも大恋愛にまつわる忘れられない事件はたくさんある。小学5年生遠足に向かうバスの中で、あの女の子と悪口ゲームが始まる。お互いに一つずつ悪口を言い合うゲームだ。なんでこんな事をしていたんだろう。最初は彼女から。

「チビ!」「お前もチビ!」「ホクロ!」「サル!」「ホクロ中心で見るとキモい男!」

僕は今でもこの「ホクロ中心で見るとキモい男」というパワーワードを覚えているくらい、胸に刺さったのだ。

過去に戻ろう。バタフライ・エフェクト!

すべて受け止めて、ただ褒め続けよう。どんな悪口を言われても、ただひたすら彼女の好きなところを言おう。そうすれば、君の4年は2ヶ月になる可能性だってあるのだ。 安心したのも束の間、この後、彼女の事を好きな男が現れるのだ。そいつは休み時間になるといつも僕らのクラスに現れる。そして優しい笑顔で彼女に話しかけるのだ。僕は彼女の笑っている姿に心臓の左下が苦しくなった。完全なる危機感を覚えた。そしてあの日がやってきたのだ。場所は原山スキー場。古橋くんに仲介してもらい、男3人で会うことになった。まずは親交を深めようと、ひたすらに遊んだ。遊び疲れた夕暮れ、僕は決心した。やるしかない。僕は涙の土下座をした。「彼女を譲ってください!」

さすがに驚いた様子の彼は言った。「いいよ」と。

過去に戻ろう。バタフライ・エフェクト!

まず、彼に頼んだところで彼女が自分のことを好きになる保証などない。そして、何がどうであろうと土下座は絶対にやめておけ。お前は、これからの人生、映画やドラマの土下座のシーンを観たり、友達との会話の中で土下座という単語が出てきたりする度に、あの時の鼻水まみれの惨めな自分を思い出すだろう。

過去に戻るのはリスクが伴う。『バタフライ・エフェクト』でも起きたように、過去の出来事を変えてしまえば、未来が変わり、誰かと会う事実すらなくなってしまう事だってあるのだ。例えば、こんなにも小学生時代の過去を本当に変えてしまったら一体どうなるだろう。たった少しの自分の言葉や、行動の選択で、世界が変わる。

これまでの自分の選択があったからこそ、今の人達に出会えている。つまり、僕が今生きている。その事実だけを、見ていれば、自然と後悔という言葉は自分の頭の中の辞書から消えていくだろう。タイムマシーンなんていらないね。

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FEATURED FILM
監督:エリック・ブレス, J・マッキー・グルーバー
脚本:エリック・ブレス, J・マッキー・グルーバー
出演: アシュトン・カッチャー, エイミー・スマート, エリック・ストルツ
アシュトン・カッチャー主演のタイムスリップ系サスペンス。
過去を書き換える術を知り、最愛の女性を救おうとした青年に訪れる運命を描く。
PROFILE
俳優
大下ヒロト
Hiroto Oshita
1998年生まれ、岐阜県出身。オフィス作所属の俳優。2016年に上京し、翌2017年、映画『あみこ』でデビュー。同作が第 68 回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品、ぴあフィルム・フェスティバル(PFF)にて観客賞、下北沢映画祭グランプリを受賞するなど話題に。近作に、映画『アイネクライネナハトムジーク』、『転がるビー玉』、ドラマ『電影少女-VIDEO GIRL MAI 2019-』』(TX系)、『ストロベリーナイト・サーガ』#11、12(CX系)、『TWO WEEKS』(KTV・CX系)、『美食探偵 明智五郎』#1、2をはじめ、映画・TV・ミュージックビデオなどに出演。
デビュー前よりInstagramで公表している「大下ヒロトの青春日記」が話題を集めている。
Instagram: @hiroto_mitsuyo
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