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あなただけを追いかけさせて。

大下ヒロトのいつかの君とつながりたい。第12回

あなただけを追いかけさせて。

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Instagramで発信する「大下ヒロトの青春日記」が話題の俳優・大下ヒロトさん。いいことも悪いことも世間に惑わされず等身大の言葉で綴り、そこから感じるまなざしの懸命さは心震えるものがあります。映画好きな大下さんが、隔月でテーマに馳せる思いと映画を綴るコラム。今月のテーマは「僕の“春”」です。
俳優
大下ヒロト
Hiroto Oshita
1998年生まれ、岐阜県出身。オフィス作所属の俳優。2016年に上京し、翌2017年、映画『あみこ』でデビュー。同作が第 68 回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品、ぴあフィルム・フェスティバル(PFF)にて観客賞、下北沢映画祭グランプリを受賞するなど話題に。近作に、映画『あの頃。』、『花束みたいな恋をした』『とんかつDJアゲ太郎、『転がるビー玉』、ドラマ『惑星サザーランドへようこそ』をはじめ、映画・TV・ミュージックビデオなどに出演。デビュー前よりInstagramで公表している「大下ヒロトの青春日記」が話題を集めている。

コラムでなんの映画を書こうかと悩んでいる時に、高校の同級生の山際くんに電話をしてみた。10コールくらいで寝ぼけた山際くんが電話に出た。「僕らの高校時代の映画って何かな? やっぱり『青い春』だよね?」
この映画ボケに対して、いつもの山際くんなら「お前、屋上で度胸試ししたことないやろ」と映画ツッコミを返してくれるはずなのだが、山際くんは寝ぼけているので「違うでしょ。『69 sixty nine』(シックスティ・ナイン)でしょ」と答えた。

確かに、この映画には本当に影響された。高校2年生の頃に、この映画を観た後に、僕と山際君は何かがしたくなり、生徒会に入ろうと計画を立てた。山際君は割と成績が良くて、すんなり生徒会に入る事が出来たのだが、僕は成績が最悪で、入るのにも一苦労だった。
生徒会の応募期間になり、選挙管理委員会に書類を提出したのだが、1日で提出した紙が帰ってきた。書類をよく見てみたら、「生徒会長」と記入しなければいけないところを、「先徒長」と書き間違えていたのだ。すぐに学校一怖い先生に職員室に呼ばれた。
「お前が生徒会長? 誰がついてくるんだ。」
「はい。ついてきてもらえる様に頑張ります。」
「本気なんだな?」
「はい。」
「だったら俺が力尽くでもお前を落とす。」
そう言って先生は、僕よりふさわしいと思う生徒を生徒会長に立候補させたのだ。
いつも、信任投票で生徒会を決めるのだが、僕の高校が始まって以来の、選挙が始まった。選挙演説で、全校生徒の前に立った時、「今の俺は、『69 sixty nine』のケンみたいだ!」と自分に酔っていた。
「ただただ、僕は生徒の皆さんに自由に青春を謳歌してほしい。その為だけに立候補しました!」

『69 sixty nine』は、好きな女の子の気を引くためだけにやりたい放題やる、男子校高校生・ケンとアダマが主人公の学園モノ映画だ。映画の中でケンとアダマが学校バリケード封鎖を計画した時、仲間のイワセが言った。「ケンは真面目に政治のことなんか考えとらん。ただ目立とうと思うとるだけやろ」。するとケンは「それじゃいけんと?」と言う。そしてアダマが「よかやっか。面白かけんするかっと。そいでよかやっか。」

僕もそうだった。ただ面白い事がしたい。それだけだった。
そして僕は生徒会長になった。

生徒会企画第一弾。つまらない予算会議を面白くする。
僕らの高校には予算会議があるのだが、全校生徒で長々と毎年何一つ変わることのない予算の話をする。何時間も続くこの会議は、生徒達にとってただただ寝る時間と化していた。この会議を、生徒達が目も覚めるような面白いものにしたいと考えた僕らは、休憩時間に動画を作って流そうと考えた。
当時流行っていたテレビの『トリビアの泉』風に、僕たちの高校のあるあるネタを映像にするのはどうだろう、と山際君に話すと山際君は監督と編集をやってくれた。
僕らの高校は女子の多い岡本校舎と男子が多い山田校舎に分かれていて、全校集会は2つの校舎が集まって行われる。山田校舎の男達は、全校集会の時だけ、髪の毛にワックスをつけてガチガチに決めてくる。鏡の取り合いを描く映像を作り、最後に「山田校舎の男。全校集会になると髪の毛セットしがち。」とナレーションをつけた。
こんな動画を何本か作り、休憩時間に流した。生徒達は大爆笑。あの時、気持ちよかったよなぁ。
次の日、僕達は無断で流した事により、生徒指導の先生に呼ばれて一日中叱られた。

『69 sixty nine』で、ケン達が学校をバリケード封鎖したのはレディ・ジェーンこと、同級生のマドンナである松井和子の影響だ。
ケンは帰り道、レディー・ジェーンに「よう学生のデモとかバリケードとかあるもんね。うちも分かる気がする」と言われる。
その言葉を妄想で膨らましすぎたケンは「うち、バリケード封鎖する人、大好きやもん」と勝手に頭の中で変換したのだった。

僕らにも、レディー・ジェーンはいた。隣の高校のあずちゃん。山際くんの家は、その子の通ってる高校の近くにあって、僕らは毎朝あずちゃんと会うために、あずちゃんがやってくるバスの時間を調べていた。そして偶然を装って、会う。「あ、おはよー!」の一言の為だけに会う。そして僕らの高校はそれより全然遠いので遅刻する。
ある時、あずちゃんが言った「2人って、映画好きなの? オススメ映画教えてー!」という言葉が、僕らの魂に火をつけた。
ただ山際君より面白い映画を見つけて、あずちゃんにオススメすることしか考えていなかった。そして僕らは決意したのだった。

生徒会企画第二弾。文化祭で映画を作る。
タイトルは、「あなただけを追いかけさせて」。
青春映画だ。この間の件で先生に怒られていたので、表向きのストーリーは1人の少年(僕)が女の子と出会い勉強を頑張るという話。先生に、予告編だけ見せて、OKを貰ったら後はやりたい放題。そこから徹夜続きで撮影と編集をした。

今思うと、どうしてあずちゃんに完成した映画を観てもらわなかったのだろうか。
この話の終わり方として、どう考えても、あずちゃんに僕らの映画を観せて、その後にあずちゃんからの何かしらの言葉をもらう、というのが良い終わり方だと思う。
僕らの青春は『69 sixty nine』の様にはならなかったのだ。

『69 sixty nine』の影響で何か面白いことをしようと考えて、それを行動に移している時、僕らの頭の中にはロックンロールが流れていた。
そして僕たちは、映画のラストシーンで銀杏BOYZの『ボーイズ・オン・ザ・ラン』を流し、出演者全員で田んぼ道を走った。あの瞬間は一生忘れないだろう。

多分、僕らがあずちゃんに映画を観てもらわなかったのは、“あの”瞬間が、何もかもを忘れさせてしまったからだと思う。

FEATURED FILM
監督:李相日
脚本:宮藤官九郎
原作:村上龍
キャスト:妻夫木聡、安藤政信、金井勇太、太田莉菜、柴田恭兵
87年刊行の村上龍の自伝的同名小説を、PFFアワードで注目を集めた「青 chong」の李相日が監督、「木更津キャッツアイ」の宮藤官九郎の脚本で映画化。ベトナム反戦運動が高まり、大学紛争に揺れる69年。長崎県佐世保市の高校生ケンは友人のアダマとイワセを誘い、演劇とアートとロックのフェスティバルを開催しようと計画。これはあこがれのレディ・ジェーンの気を惹くのが目的だったが、警察の介入を招く事態になっていく。
PROFILE
俳優
大下ヒロト
Hiroto Oshita
1998年生まれ、岐阜県出身。オフィス作所属の俳優。2016年に上京し、翌2017年、映画『あみこ』でデビュー。同作が第 68 回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品、ぴあフィルム・フェスティバル(PFF)にて観客賞、下北沢映画祭グランプリを受賞するなど話題に。近作に、映画『あの頃。』、『花束みたいな恋をした』『とんかつDJアゲ太郎、『転がるビー玉』、ドラマ『惑星サザーランドへようこそ』をはじめ、映画・TV・ミュージックビデオなどに出演。デビュー前よりInstagramで公表している「大下ヒロトの青春日記」が話題を集めている。
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