PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の大切な映画があれば…人と映画の物語
今の僕がここにいるのは。

大下ヒロトのいつかの君と繋がりたい。第11回

今の僕がここにいるのは。

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(Instagramで発信する「大下ヒロトの青春日記」が話題の俳優・大下ヒロトさん。いいことも悪いことも世間に惑わされず等身大の言葉で綴り、そこから感じるまなざしの懸命さは心震えるものがあります。映画好きな大下さんが、隔月でテーマに馳せる思いと映画を綴るコラム。今月のテーマは「死ぬまでにやりたいこと」です。)

「人生の価値は容易には量れない。ある人は、人生の価値は家族や友で、ある人は信仰心で、ある人は愛だという。人生は意味などないという人もいる。私は自分を認めてくれる人がいるかで決まると思う」
これは映画『最高の人生の見つけ方』の冒頭の台詞だ。
入院先の病室で知り合った余命半年ほどのカーターとエドワード。死ぬまでにやりたいことを書いているカーターの棺桶リストを実現する旅に出る。スカイダイビング。タトゥーを入れる。好きな車に乗る。絶景を見る──。
僕は、そんな2人を見ていて、死ぬまでにやりたいことを考えていた。
中学の卒業文集では、「僕の夢は、宇宙で死ぬことです。地球を見て死にたい。」と書いている。笑われるかもしれないが、当時も、今でも真剣に叶えたい夢の一つ。この夢が出来たのは確実に『アルマゲドン』の見過ぎからだ。何度、あの映画のラストシーンのブルース・ウィリスに憧れたことか。
他にも夢はある。世界旅行だ。僕が初めて世界に対して興味を持ったのは、小学校の先生だった林田先生のお陰だ。林田先生は、授業の途中に、自分が仲間とカンボジアに行き、山を登った時のことを話してくれた。
途中で出会った子供達にご飯を分けて欲しいと頼まれ、林田先生達は、子供達にご飯を分けたら、石ころを大量に貰ったというのだ。これから登山に行くので、みんなは途中で捨ててしまったのだが、林田先生は1つだけその石ころをポッケに入れていたらしい。
後々、林田先生はその石を調べるとものすごく高価な石だったという。
クラスのみんなは、それから林田先生のことを“カンボジア”と呼んでいたが、僕は今でもはっきりとこの話を覚えている。世界の話を初めて聞き、世界中の人と話してみたいと思うようになった。
だけど、今考えるとお金と行動力があれば、これらの僕の夢は叶えられてしまうと思う。
僕のこの宇宙に行く夢だって、億万長者になれば簡単に叶えられてしまう時代なのだ。

映画『最高の人生の見つけ方』のカーターとエドワードは、徐々に死ぬまでにやりたいことを一つ一つやっていく喜びよりも、二人で過ごす時間を楽しんでいる様に見えた。
旅の終わりに、カーターがエドワードに送った手紙には”恩を返すすべがない。だから別の頼みことをしたい。人生を楽しめ。”と書かれていた。そしてエドワードもカーターのことを”我々は互いの人生に喜びを見出しあったといっても過言ではない。だから、いつの日かこの私が最期の眠りについて天国の扉の前で目を覚ましたとき、その証人としてカーターにいて欲しい。”と語っている。
どんなにお金があったとしてもこれは、お金では買えないものだ。
お金で買えない夢があると気が付いた。
僕は、仕事が決まると、今まで出会った人達の顔が浮かんでくる。
例えば、「いだてん」の箱根駅伝の選手役が決まった時は、昔陸上を習っていた時の先生や友達の顔が浮かんできた。
あの時過ごした時間が無かったら、今の自分はここにいないと思うと、その人達との思い出が頭の中で溢れかえる。

最近は、高校時代に、英語の吉川先生に夢を聞いたことを思い出した。英語の授業で、小テストをするのだが僕は一回も合格したことがなく、毎回放課後になるとその先生のところに行ってこっぴどく叱られ、再テストを受けてた。僕の天敵だったのだ。そんな吉川先生に、夢を聞いたことがある。僕は正直「夢なんてない」と言われると思っていた。
「先生って、夢とかあるんですか?」
「そりゃあ、世界平和だよ」と先生は言った。その時、僕は世界平和という言葉は、どこか遠くの言葉の様に思っていたが、実は自分の一番近い所の言葉であることに気付けた。

 

こんなに映画が好きになったのも、中学の時の担任だった横口先生のお陰だ。横口先生は、自習の時にいつも好きな映画の話をずっとしていた。それが楽しみで、僕はいつも自習の授業が好きだった。先生がオススメしてた映画を家で観て、先生に感想を言うのが好きだった。高校生になって初めて『セブン』という映画を観たのだが、どうも内容が聞いたことある話で、思い出してみると横口先生が最後のオチまで全部話していて、それは“ふざけるな”と思った。

僕は東京に来た時から、今でもずっと同じ場所でアルバイトをしているのだが、その場所でも大切な人がいる。年齢は20歳くらい離れてる女性の方なのだが、この人は、僕に、僕が持っていない優しさを教えてくれた。どんな時でも、素直な気持ちをぶつけてくれた言葉に、何度救われたことか。出会った当初は、その言葉の優しさというものに気付けなかったが、今ではよく分かる。
仕事が決まった時は、いつもその人に電話をかける。自分のことのように喜んで、何度も「おめでとう」と電話越しでも分かる興奮で爆発しそうなあの声を、これからも出来るだけ多く聞きたい。
(舞台挨拶に来てくれた時は、終わった後に「カッコつけすぎ。バイト中みたいに鼻広げてブサイクな顔でいろ!」なんて言われたりもした。舞台挨拶くらい、カッコつけさせてくれよ。

先日、忘年会で3年程前から仲の良い友達に会った。
その子は、映像関係の会社にいて、会社の面談でこれからの夢を聞かれ、「私の夢は大下ヒロトが売れることです」と言ったら上司にかなり怒られたらしい。
「この仕事をいつまでやっているか分からないし、いつかは結婚もする。けど本当に私の夢はあなたが売れることなんだよねえ。それしかないんだよね。」と言われた。
自分の夢が、誰かの夢にもなっているのを目撃して、僕はただただ、涙を堪えて「ありがとう」としか、言えなくなっていた。

考えてみたが、僕は、死ぬまでにやりたいことなどないのだ。
何かをするという体験はもちろん大切だと思うけど、僕が考えてみて思い浮かぶのは、共に過ごしてきた人達だった。
いくらお金があったとしても、これはお金で買えないものだ。
お金で買えないものをどれだけ大切にできるか、が自分の夢なのだと思った。

僕は一人では生きていない。これまでも、これからも。そのことを、一秒たりとも忘れずに生きていきたい。

大下ヒロトのいつかの君とつながりたい。 第11回 「今の僕がここにいるのは。」
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PROFILE
俳優
大下ヒロト
Hiroto Oshita
1998年生まれ、岐阜県出身。オフィス作所属の俳優。2016年に上京し、翌2017年、映画『あみこ』でデビュー。同作が第 68 回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品、ぴあフィルム・フェスティバル(PFF)にて観客賞、下北沢映画祭グランプリを受賞するなど話題に。近作に、映画『アイネクライネナハトムジーク』、ドラマ『電影少女-VIDEO GIRL MAI 2019-」』(TX系)、『ストロベリーナイト・サーガ』#11、12(CX系)、『TWO WEEKS』(KTV・CX系)をはじめ、映画・TV・ミュージックビデオなどに出演。
待機作に『転がるビー玉』(2020年2月7日より全国順次公開)等。
デビュー前よりInstagramで公表している「大下ヒロトの青春日記」が話題を集めている。
Instagram: @hiroto_mitsuyo
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