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思い出の味

大下ヒロトのいつかの君とつながりたい。第10回

思い出の味

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Instagramで発信する「大下ヒロトの青春日記」が話題の俳優・大下ヒロトさん。いいことも悪いことも世間に惑わされず等身大の言葉で綴り、そこから感じるまなざしの懸命さは心震えるものがあります。映画好きな大下さん。隔月でテーマに馳せる思いと映画を綴るコラム、今月のテーマは「家族の味」です。
俳優
大下ヒロト
Hiroto Oshita
1998年生まれ、岐阜県出身。オフィス作所属の俳優。2016年に上京し、翌2017年、映画『あみこ』でデビュー。同作が第 68 回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品、ぴあフィルム・フェスティバル(PFF)にて観客賞、下北沢映画祭グランプリを受賞するなど話題に。近作に、映画『あの頃。』、『花束みたいな恋をした』『とんかつDJアゲ太郎、『転がるビー玉』、ドラマ『惑星サザーランドへようこそ』をはじめ、映画・TV・ミュージックビデオなどに出演。デビュー前よりInstagramで公表している「大下ヒロトの青春日記」が話題を集めている。

先日、事務所の同期でもある俳優の楽駆が出演している映画『最初の晩餐』を見た。
家族の話だった。映画を観終わり、新宿の街を歩いていると、ふと、母親に電話がしたくなった。電話が繋がり、「もしもし」と言うと母親は直ぐに「なにか仕事決まった?」と聞いてきた。その時、僕は少し悲しい気持ちになってしまった。仕事以外の事でも、電話したっていいじゃないか。だけど、そう言うのも仕方がない事だと思った。上京してからの僕が、母親に電話をかける時は仕事が決まった時だけだからだ。
僕は、最近自分が考えている事、それによって少しわからなくなってしまっている事を相談した。母親は、それを聞いて、「大丈夫。生きてるだけで幸せだよ」と言った。

映画『最初の晩餐』は、主人公麟太郎の父である、日登志の死から始まる物語だ。
お通夜で振る舞われる料理を、母のアキコが作ると言い出し、麟太郎は戸惑う。しかし、最初に出てきた目玉焼きを見て、麟太郎は思い出す。「これは、父が初めて僕らに作った料理だ」と。
お通夜に出てくる料理は、家族の思い出の料理ばかりだった。家族は、出てくる料理に寄り添っている優しい思い出を辿っていくのであった。

映画を観終わった後、映画にも出てくるすき焼きが食べたくなって、一人で帰り道にある吉野家ですき焼きを食べた。
食べている時、家族の思い出の料理を思い出していた。
なぜか、一番思い出深い料理は母が作ったホットドッグだ。
僕は高校2年生の時に、役者を目指すと決めて、毎週東京に演技のレッスンに通っていた。
母は、いつもホットドッグを10個作ってくれた。
僕の地元の岐阜から、東京まで行くのには高速バスで5時間半。寝て起きて、ホットドッグを少し食べる。そしてまた寝て起きてホットドッグを食べる。その繰り返しで、東京に着く頃にはホットドッグが2個くらいしか残っていなかった。東京に着き、レッスンを受ける。高校生だった僕は、全くお金が無く、友達のご飯の誘いを断り、早めに宿に帰る。そして、リュックの中にある残り2個の冷たいホットドッグを食べる。これが僕の楽しみだった。右も左も、上も下も全く分かんない東京の安宿で、このホットドッグは、どこまでも優しい味だった。

他にも僕の家族の伝統料理とも言える料理がある。子供の頃から、2ヶ月に一回くらいで夕飯に出るナスハンバーグ。略してナスハンだ。簡単に言えば、ナスの間にひき肉を入れて、油で揚げたもの。そしてそれを、マヨネーズ。ケチャップ。ソース。を混ぜたものにつけて食べる。これが本当に美味しい。
高校生になって、友達を家に呼んで一緒に夕飯を食べることが増えた時、ナスハンの美味しさを友達にも体感して欲しかったので、お母さんにナスハンを頼んだ。すると、たちまち友達の中でナスハンが大流行。僕の友達の山際君は、ナスハンが食べたいがためにナスを大量に持ってきた事だってある。
僕は、誰かが美味しそうにご飯を食べている姿が好きだ。沖田修一監督の『南極料理人』が久し振りに観たくなった。お腹が空いている時に、観てしまい、途中から映画の内容が入ってこなかった。そんな風になってしまうほど、とにかく美味しそうな料理がたくさん出てくる。そして、その料理を食べる人達の美味しそうな顔がたくさん観られる映画だ。

母親が久しぶりに東京に来た。僕は、「久しぶり」と言う前に、「ご飯を作って欲しい」と頼んだ。どうしてもナスハンが食べたくなって、母親にお願いした。その日は、昼過ぎにちょうど楽駆と会っていて、夕飯を一緒に食べようと誘った。楽駆は満面の笑みで、「美味しいです。美味しいです。」と言いながら、物凄い速さで、ナスハンを3つも食べていた。また、思い出の食卓の時間が増えた。

母親がよく言う、「生きているだけで、幸せだよ」という言葉は、久し振りに母親の料理を食べた時、改めて分かった気がする。いただきます。ごちそうさまでした。この2つの言葉は、もっと想おう。今日は何を食べようかな。

FEATURED FILM
出演: 堺雅人、生瀬勝久、きたろう、高良健吾、豊原功補
監督: 沖田修一
元南極観測隊員である西村淳原作のエッセイ「面白南極料理人」を映画化。南極ドームふじ基地に派遣された西村(堺雅人)は、南極観測隊員として派遣された7人の仲間のために毎日食事を作る。
PROFILE
俳優
大下ヒロト
Hiroto Oshita
1998年生まれ、岐阜県出身。オフィス作所属の俳優。2016年に上京し、翌2017年、映画『あみこ』でデビュー。同作が第 68 回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品、ぴあフィルム・フェスティバル(PFF)にて観客賞、下北沢映画祭グランプリを受賞するなど話題に。近作に、映画『あの頃。』、『花束みたいな恋をした』『とんかつDJアゲ太郎、『転がるビー玉』、ドラマ『惑星サザーランドへようこそ』をはじめ、映画・TV・ミュージックビデオなどに出演。デビュー前よりInstagramで公表している「大下ヒロトの青春日記」が話題を集めている。
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