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年末からお正月にかけて、帰省や旅行で多くの人でにぎわう空港の様子がテレビで流れてきました。南の国へ直行らしき陽気な軽装のカップル、帰省であろう大きな荷物を持ったお父さんと子どもの手を引くお母さん、休み返上のビジネスマン。それぞれの行き先を感じさせます。あの映像を見ると思い出すのが、トム・ハンクス主演の『ターミナル』です。
どんな旅行者にとっても、空港はあくまで通り道。でもこの映画では違います。主人公ビクターは、祖国で起きたクーデターのためビザが無効化され、ニューヨークの空港でビザの回復を待ち続けることになります。その姿が彼の父親のエピソードと重なったとき、過去と今をつなぐ新たな時間軸が立ち上がり、物語のスケールがぐっと広がる気持ちよさがあります。
二代にわたって待ち続けるビクターですが、ただむやみに待つだけではありません。彼は食料を得る方法を編み出し、言葉を覚え、仲間や仕事を得ていきます。やがて恋さえも。閉じ込められたターミナルの中で、明るく生活を送り始めます。そんな彼の前向きな行動が、映画のラストに大きく関わってくるのです。
会いたい人に会えない、行きたい場所に行けない、やりたいことができない。他人がどんどん目的の場所を目指して目の前を通り過ぎていく。ビクターほど特殊な事情でないとしても、人生の中で身動きの取れない時期は誰にでもあるものです。出口がわからず、ただただ、「待つ」しかない。そんなときは気持ちも沈むし、目線は下向きになってしまいます。
私も、半端な仕事しかできず、八方ふさがりの時期がありました。子どもは小さく手がかかり、新しい道へ踏み出したり勉強したりのゆとりもなく、目の前の注文をこなすのでいっぱいの日々です。大変な環境でがんばっている友人すら、自分を責める材料になります。それは私にとって、出口の見えない、長い待ち時間のように感じられていました。
それでも、自分にできるほんのささいなことーー絵を描き始めるという小さな創作を始めてから、自分の心に明るさが生まれました。仕事でも、自分の目標や未来をいったん忘れ、目の前のこと、今できることにフォーカスしたのが功を奏しました。
誰とも比較することなく、今できるところから少しずつ自分の表現の場を広げていったことが、結果的にはよい方へと自分を導いた気がします。
空港は目的地ではなく、通過地点にすぎません。でも、そこで立ち止まってゆっくりと周囲を見渡す人は、通過地点にもさまざまな人生が存在していることに気づくでしょう。世界には「広さ」だけではなく、「奥行き」があることを知る、その体験は人生の豊かさに直結します。はやくここを出たいと思いながらも下を向いて待つか。自分の目の前にある世界を楽しみ、明るく待つか。どちらを選ぶのも自由です。
ようやく空港の外に踏み出したビクターが吸い込んだ冬の空気は、いったいどんな匂いがしたのだろうと、映画を観たあとにしばらく想像した私でした。
◎映画のスープレシピ:
待つことが味になるスープ
(塩豚のポトフ)
粗塩 15g(肉の重さの3%)
砂糖 7.5g(肉の重さの1.5%)
黒こしょう 適量
じゃがいも 2~4個(人数分×個数)
マスタード 適宜
◎つくり方
- 1豚肉は1/2の長さに切る。粗塩、砂糖、黒こしょうをはかって、混ぜておく。
豚肉と調味料をビニール袋に入れ、全体にしっかりとまぶしつけ、空気を抜いて口をしばり、冷蔵庫で3日以上寝かせる。 - 2袋から肉を取り出し、流水で洗う。
肉を取り出し厚手の鍋に入れ、肉がかぶる高さまで水を入れ、強火にかける。アクがある程度出たらお玉ですくいとり、弱火に落として、20~30分ごとに水を足しつつ約1時間煮込む。 - 3皮をむいた丸ごとのじゃがいもを肉の脇に入れ、さらに30 分ほど煮て、じゃがいもが柔らかくなったらできあがり。味を見て足りなければ塩でととのえる。肉を切ってじゃがいもと一緒に盛り付け、好みでマスタードを添える。
※2021年3月25日時点の情報です。
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