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有賀薫の心においしい映画とスープ 16皿目

選ばれる人生より選ぶ人生を
『セックス・アンド・ザ・シティ』

シンプルレシピを通じ、ごきげんな暮らしのアイデアを日々発信する、スープ作家・有賀薫さん。スープの周りにある物語性は、映画につながる部分があるかも? とのことで、映画コラム連載をお引き受けいただきました。題して「心においしい映画とスープ」。映画を観て思いついたスープレシピ付きです。
スープ作家
有賀薫
Kaoru Ariga
1964年生まれ、東京都出身。スープ作家。ライターとして文章を書く仕事を続けるかたわら、2011年に息子を朝起こすためにスープを作りはじめる。スープを毎朝作り続けて10年、その日数は3500日以上に。現在は雑誌、ネット、テレビ・ラジオなど各種媒体でレシピや暮らしの考え方を発信。著書に『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』(文響社)で第5回レシピ本大賞入賞、『朝10分でできる スープ弁当』(マガジンハウス)で第7回レシピ本大賞入賞。ほかに『スープ・レッスン』(プレジデント社)、『有賀薫のベジ食べる!』(文藝春秋)など。11月29日『私のおいしい味噌汁』(新星出版社)発売予定。

Clubhouseという声のSNSが話題になり、私もご多分に漏れず、さっそく入ってみました。
「ルーム」と呼ばれるおしゃべり部屋を立ち上げさえすれば、2人でも3人でも10人でも同時に話ができるしくみ。私だったら「鍋について語りたい」「春に食べたいおかず」「料理好きの人集まろう」みたいなルームを立てると、興味のあるリスナーが立ち寄って聴いてくれます。リスナーも参加できるので、さらに話が膨らんでいく、そんな具合です。最近ネットの上では仕事の報告ばかりで、自分の本当にやりたいことは後回しになっていたので、おしゃべりしてみたい人を誘ってはルームを立てています。

さて、『セックス・アンド・ザ・シティ』のリブート版が最終エピソードから17年ぶりに制作されると聞いて、久しぶりにシリーズを観返しながら、もしキャリーたちがClubhouseでおしゃべりするなら絶対に聴きに行きたいと思いました。
舞台は1990〜2000年代のニューヨーク。恋愛のきれいな面だけではなく、恋人との出会いや進展、セックスライフ、結婚、キャリアといったリアルな悩みを、友達同士の打ち明け話として語らせるこのシリーズ。ブランドの靴と最高の男を追いかけ、キラキラした世界を夢見続ける主人公・キャリーの姿は、2021年の価値観でいえば若干バブリーで子供っぽく感じられたものの、4人のおしゃべりは色褪せたりはしていませんでした。

2008年に公開された映画版『セックス・アンド・ザ・シティ』は、キャリーが恋人のミスター・ビッグと結婚が決まったところから始まります。有名コラムニストであるキャリーの結婚式は、マスコミも巻き込んで大がかりになり、それが原因で二人にはすれ違いが生じます。
私がもしキャリーの友人だったら、ビッグの心が見えていない彼女に忠告していたかもしれません。でもそれは、華やかな世界で生きるキャリーに「相手におもねる、わきまえた女になれ」と言うのと同じ。ミランダ、サマンサ、シャーロットの三人は違います。何があってもキャリーを否定せず、厚い友情で支えてくれる。だからこそキャリーも前を向き、自分の欲望や生き方を素直に解放できるんだと思います。

女性は長い間「受け身の性」で、選ぶことより、選ばれることを重んじてきたところがあります。嫌われないよう自己主張を押さえ、悪目立ちしない化粧やファッションを意識し、趣味や意見が合わなくても我慢しながらにこやかに人付き合いを続ける。でもそのやり方を続けていると、自分の欲望がだんだん小さくしぼんで、見えなくなってしまいます。
自立的な人生を送りたいと思う女性は多いと思いますが、必要なのは選ばれることではなく「選ぶこと」。その時に自分という存在に勇気を与え、大きな力になってくれるのは友達です。女の敵は女、なんて言わずに、応援してくれる友を持ち、生き方を肯定してもらうことが明日への活力につながるはず。

リスナーになるだけでなく、自分の気持ちや考えを飾らない言葉で喋ってみる。そんな小さな体験が、受け身だった人生を大きく変えてくれるきっかけになるかもしれないと、SATCとClubhouseは思い出させてくれました。

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ニューヨークとスープ、で思い浮かぶのが、マンハッタン・クラムチャウダー。クラムチャウダーはもともと、ニューヨークの北東部に位置するニューイングランド地方が発祥の、二枚貝が入った具沢山スープです。一般的には牛乳をたっぷり入れたクリーム味で「ボストン・クラムチャウダー」と呼ばれますが、これに対してニューヨークではトマト味の「マンハッタン・クラムチャウダー」が主流です。

今回はSATCの舞台に敬意を表してトマト味のマンハッタン・クラムチャウダーを紹介しますが、トマトを抜いて牛乳を足せばボストン・クラムチャウダーにもなります。どちらを選ぶかはもちろん、あなたです。主体的にお選びください。
貝のうまみがたっぷり出た、熱々具沢山のスープは本当においしいものです。まだまだ肌寒い日も多いので、ぜひ作ってみてくださいね。

◎映画のスープレシピ:
どちらを選ぶも自分次第
マンハッタン・クラムチャウダー

▼材料(2人分) 調理時間約35分
あさり(冷凍のむき身) 80~100g
たまねぎ 1/2個
にんにく 1片
じゃがいも 大1個
トマト缶 1/2缶 ※カット缶を使用。ホールならつぶしておく
塩 小さじ1弱
オリーブオイル 大さじ1
(あれば)クラッカー、粉チーズ 適宜

◎つくり方

  • たまねぎは粗いみじん切り。にんにくは皮をむきつぶす。じゃがいもは1cm角のさいの目に切る。あさりは解凍しておく。
  • 2鍋にオリーブオイルを熱してたまねぎとにんにくを中火で炒める。香りがたったらじゃがいもを加えて全体を混ぜ、トマト缶をジュースごと入れる。塩と水400mLを加えてふたをずらしてかける。沸騰後、弱火にして、20分ほどじゃがいもがやわらかくなるまで煮る。
  • 3あさりを最後に加えて3分煮て、火を止める。味を見て、塩と胡椒(分量外)で調節してできあがり。
    好みでクラッカーや粉チーズを添える。

【トマトをミルクに変えるとクリーム味に!】
トマトを抜いて作り、あさりを入れるタイミングで、牛乳100mLを加える。煮立ってから1~2分経ち、あさりに火が通ればOK。

【もちろん、殻付きのあさりでも!】
殻付きのあさりの場合、200~300gを使います(砂抜き済みのものが便利!)。
冷凍のむき身のあさりの場合と同じタイミングで加えてください。鍋にふたをして、あさりの殻が開いたらできあがりです。

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FEATURED FILM
監督・脚本:マイケル・パトリック・キング
出演:サラ・ジェシカ・パーカー、キム・キャトラル、クリスティン・デイヴィス、シンシア・ニクソン、クリス・ノース、ジェニファー・ハドソン
大人気TVシリーズの完結から4年、恋に仕事に貪欲な4人の女性たちのその後の物語が、新たに映画版で帰ってきた! 主演と製作を兼ねるサラ・ジェシカ・パーカーなど主要キャストが勢揃いしたのに加え、『ドリームガールズ』のオスカー女優ジェニファー・ハドソンも参加。またTVシリーズ同様、人気スタイリストで衣装デザイナーのパトリシア・フィールドが衣装を担当。女優たちが着こなす300着ものファッションも見逃せない。
PROFILE
スープ作家
有賀薫
Kaoru Ariga
1964年生まれ、東京都出身。スープ作家。ライターとして文章を書く仕事を続けるかたわら、2011年に息子を朝起こすためにスープを作りはじめる。スープを毎朝作り続けて10年、その日数は3500日以上に。現在は雑誌、ネット、テレビ・ラジオなど各種媒体でレシピや暮らしの考え方を発信。著書に『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』(文響社)で第5回レシピ本大賞入賞、『朝10分でできる スープ弁当』(マガジンハウス)で第7回レシピ本大賞入賞。ほかに『スープ・レッスン』(プレジデント社)、『有賀薫のベジ食べる!』(文藝春秋)など。11月29日『私のおいしい味噌汁』(新星出版社)発売予定。
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