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有賀薫の心においしい映画とスープ 17皿目

本能と理性の間に人生はある
『タンポポ』

有賀薫の心においしいスープと映画「本能と理性の間に人生はある 『タンポポ』」
シンプルレシピを通じ、ごきげんな暮らしのアイデアを日々発信する、スープ作家・有賀薫さん。スープの周りにある物語性は、映画につながる部分があるかも? とのことで、映画コラム連載をお引き受けいただきました。題して「心においしい映画とスープ」。映画を観て思いついたスープレシピ付きです。
スープ作家
有賀薫
Kaoru Ariga
1964年生まれ、東京都出身。スープ作家。2011年から10年間、3000日以上にわたり朝のスープづくり『スープ・カレンダー』を日々更新。スープの実験室「スープ・ラボ」をはじめ、イベントや各種媒体を通じ、おいしさに最短距離で届くシンプルなレシピや、日々楽に料理をする考え方などを発信中。著書に『ライフ・スープ くらしが整う、わたしたちの新定番48品』『スープ・レッスン』(プレジデント社)、『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』(文響社)、『おつかれさまスープ』(学研プラス)、『なんにも考えたくない日は スープかけごはん で、いいんじゃない?』(ライツ社)、『有賀薫の豚汁レボリューション』(家の光協会)、『こうして私は料理が得意になってしまった』(大和書房)など多数。『朝10分でできる スープ弁当』(マガジンハウス)で第7回レシピ本大賞入賞。2023年3月10日に新刊『有賀薫のベジ食べる!』(文藝春秋)が発売予定。

伊丹十三監督の『タンポポ』、もう36年前の映画なんですね。私は当時から、伊丹十三さんのファンでした。映画監督という以前に名優であり、知性豊かで風刺の効いた文章を書く素晴らしいエッセイストでもあった伊丹さん。中でもヨーロッパで長期滞在した経験から披露される食文化のうんちくは、自分の料理への興味とも重なって夢中で読みました。まだ日本人がスパゲティといえばケチャップで味つけしたナポリタンしか知らなかった昭和40年代に、アル・デンテのゆで加減や麺を上手に食べるフォーク使いをすでに語られていたのです(『ヨーロッパ退屈日記』)。

おしゃれでセンスの塊のような伊丹さんが、やがて映画監督としてお葬式やマルサ(税金)、スーパーマーケットなど、私たちのごく身近にある物事を題材にした映画を次々と世に出していったことは意外に感じました。とはいえそこはやっぱり伊丹さん、彼独特のアイロニカルな視点が盛り込まれ、笑いつつも深く考えさせられるような作品ばかりでした。

2作目の『タンポポ』は、宮本信子さん演じるラーメン屋の未亡人・タンポポが、タンクローリーの運転手のゴロー(山崎努)やガン(渡辺謙)の力を借りて店を立て直すという話。メインストーリーに並行して、人間のさまざまな「食」へのかかわり方を描いたシーンが散りばめられています。
「スパゲティをすすってはダメ」と生徒に教える気取ったマナー講師や、接待で高級フレンチを食べに来てメニューの内容がわからずに部下の出方をうかがう会社役員。漁ってきた一流料亭の料理やワインで豪華な宴会を開くホームレスたち、高級スーパーの売り場で桃やカマンベールチーズを指で押しまくる老婆。
彼らが滑稽に見えるのは、行き過ぎた欲望、あるいは逆に、形式ばった理性の風刺であるからです。とくに役所広司さん演じる一見マフィア風の「白服の男」は、肉欲と食欲がミックスしたようなシーンを繰り広げ、むき出しの欲望を表現していて、見どころのひとつでした。

過剰ともいえる食への本能と理性が、振り子のように交互に表現されていく中で、タンポポはそのどちらにも身をゆだねることなく、ラーメン屋を立て直そうとまっすぐ進んでいきます。作るのは気取らない街場のラーメンでありながらも、研究と訓練を重ね、食べる人を感動させる一杯を。本能にダイレクトに訴えかけながらも、理性によって美しく洗練された料理でした。
私は食の仕事に携わるようになって、人の食への向き合い方は本当に多様だなと思うようになりました。食べたいものを好きなだけ食べる人、環境や健康に配慮して食べる人。どの食べ方にも、人の個性が現れています。本能にも理性にも強い引力があり、どちらに行き過ぎても人間らしい生き方から離れていくことを、この映画は教えてくれます。

汗を流して働く人たちにタンポポが出す、すっきりと味わい深い一杯のラーメン。その尊さを感じつつ、久しぶりに昔ながらの醤油ラーメンが食べたくなりました。

+++

タンポポは、自分の店を行列ができるようなラーメン屋にするため、必死に学びました。実際に人気のラーメン屋さんでスープを一口すすると、この一杯のために店主はどれほどの研究を重ねたのだろうかと思う瞬間があります。味わいが複雑で、何が入っているか、どんなふうに作るのかは、映画でタンポポがやったように、こっそりのぞき見する以外にわかる術はありません。

そうしたラーメン屋さんをリスペクトしながら、家でのラーメンはもっとあっさり、簡素に作るのが王道ではないでしょうか。今回は、昆布、煮干し、鶏ひき肉でダシを取るごく簡単なラーメンスープを自作しましょう。麺はインスタントの袋麺か、生麺を使います。このスープだけでもおいしいですが、ほんのりにんにくやしょうがを効かせたり、ごま油をたらしたり、そこはあなたの工夫次第。「食べたい」という本能をベースに、工夫の限りを尽くしてぜひお好みの一杯を作り上げてください。

◎映画のスープレシピ:
本能と知性がせめぎ合う
鶏と煮干しのラーメン

▼材料(2人分) 調理時間約1時間15分
スープ
 鶏むねひき肉 200g
 昆布 10g
 煮干し 10g
 水 800mL
かえし(作りやすい量)
 醤油 大さじ3
 みりん 大さじ3
ネギ油(作りやすい量)
 長ネギ 1本
 サラダ油 200mL
仕上げ
 ラーメン(乾麺・生麺) 2玉
 塩 小さじ2/3
 胡椒 少々
 きざみ青ネギ 適量

◎つくり方

  • 1. スープを作る
    昆布と煮干し、水600mLを鍋に入れる(30分ほど浸けておくとさらによい)。
    鍋を中弱火に20分かける。昆布だけを引き上げて火を止め、そのまま15分放置してから煮干しを引き上げる。
    鶏ひき肉をボウルに入れ、水200mLでのばして鍋に少しずつ加え、中弱火~弱火で加熱する。沸騰させないように火を加減しながら15分煮る。火を止めて静かにザルで濾す(この時点でラーメンスープ600mLがとれていますが、足りない場合は600mLになるよう水を足してください)。
  • 2. かえし(醤油ダレ)とネギ油を作る
    かえしを作る。しょうゆとみりんを小鍋に入れ、沸騰させてみりんのアルコールをとばす(煮詰めなくてよい)。
    ネギ油を作る。長ネギの白い部分をみじん切りにしてサラダ油と一緒に鍋に入れ、ネギの青い部分もちぎって大きめのまま入れ、黒く焦がさないよう、ごく弱火でネギが茶色に色づくまで10分ほど加熱する。ネギの青い部分は取り除く。
  • 3. スープを合わせ、麺をゆでて仕上げる
    どんぶりにかえし大さじ1と塩小さじ1/3(2g)と胡椒少々、ネギ油小さじ2を入れておく。
    鍋に湯(分量外)をわかし、1のスープもあたためる。
    麺をゆでている間にスープ300mLをどんぶりに注いで軽く混ぜる。
    麺をザルで湯をよく切って入れ、刻んだ青ネギを散らす。

※ネギ油は、保存する場合は必ず濾しましょう。冷蔵庫に入れれば1か月近く持ちます。チャーハンや野菜炒めなど、ネギが合う炒め物なら何にでも使えます。

※残ったひき肉は砂糖、醤油、みりんなどで味をつけてそぼろに。あるいは鶏スープを加え、酒と醤油で味をつけ片栗粉でとろみをつけ、炒めた野菜やあたためた豆腐などにかけると、おいしいひき肉あんかけになります。

有賀薫の心においしいスープと映画「本能と理性の間に人生はある 『タンポポ』」
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FEATURED FILM
監督・脚本:伊丹十三
出演:山﨑努、宮本信子、役所広司、渡辺謙、安岡力也
伊丹十三の監督第2作。タンクローリーの運転手が、さびれたラーメン屋の未亡人に心奪われ、そのラーメン屋を名店にするまでを、食にまつわるエキセントリックなエピソードを交えて描く。タンクローリーの運転手・ゴロー(山﨑努)は立ち寄ったラーメン屋で、店の女主人・タンポポ(宮本信子)と出会う。実はラーメン通のゴローは、廃れたこの店を立て直すべくタンポポを猛特訓。究極のラーメン作りに乗り出す。西部劇を思わせる設定で“ラーメン・ウェスタン”として海外でも大ヒットを記録した。
PROFILE
スープ作家
有賀薫
Kaoru Ariga
1964年生まれ、東京都出身。スープ作家。2011年から10年間、3000日以上にわたり朝のスープづくり『スープ・カレンダー』を日々更新。スープの実験室「スープ・ラボ」をはじめ、イベントや各種媒体を通じ、おいしさに最短距離で届くシンプルなレシピや、日々楽に料理をする考え方などを発信中。著書に『ライフ・スープ くらしが整う、わたしたちの新定番48品』『スープ・レッスン』(プレジデント社)、『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』(文響社)、『おつかれさまスープ』(学研プラス)、『なんにも考えたくない日は スープかけごはん で、いいんじゃない?』(ライツ社)、『有賀薫の豚汁レボリューション』(家の光協会)、『こうして私は料理が得意になってしまった』(大和書房)など多数。『朝10分でできる スープ弁当』(マガジンハウス)で第7回レシピ本大賞入賞。2023年3月10日に新刊『有賀薫のベジ食べる!』(文藝春秋)が発売予定。
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