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映画の言葉『彼女が好きなものは』安藤純のセリフより

「複雑なことを無視して、世界を簡単にしたくないんだ」

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©2021「彼女が好きなものは」製作委員会
映画の中の何気ない台詞が、
あなたにとっての特別な“言葉”となり、
世界を広げ、人生をちょっと豊かにしてくれるかもしれない。
そんな、映画の中の言葉を紹介します。

複雑なことを無視して、
世界を簡単にしたくないんだ

By 安藤純

『彼女が好きなものは』より

物理の問題にはしばしば「ただし摩擦はゼロとする」という仮定が登場します。もちろん、そんな状況は基本的にはあり得ません。わかりやすく単純化するために、なかったことにするわけです。ところで、日々の生活の中でも「ただし摩擦はゼロとする」瞬間がありませんか? うっすら相手に見下されているように感じても、軽いセクハラに嫌悪感を抱いても、その場をやり過ごすために「なかったこと」にしたことは?

ゲイであることを周囲に隠して暮らしている高校生の純(神尾楓珠)は、同級生の紗枝(山田杏奈)が「隠れBL好き」だと偶然知ってしまいます。紗枝の秘密の共有者となったふたりは距離を縮め、やがて紗枝は純に告白。純は葛藤を抱えながらも自分のセクシュアリティを隠したまま彼女と交際することにします。

異性愛者のフリをし、自ら「ホモ」という言葉を使い、同性愛に関する無神経な発言もスルーして……ゲイである自分と「ふつう」でありたい自分とのジレンマに苦しんでいる純は、さまざまな摩擦をやり過ごして生きています。本作はその摩擦をひとつひとつ炙り出していくので、悪気ない無神経な発言の暴力性や人が無意識に抱いてしまう偏見を見せつけられ、思わず目を背けたくなる人も多いでしょう。

「複雑なことを無視して、世界を簡単にしたくないんだ」

そう語る純。今まで「なかったこと」にしてきた無数の摩擦は確実に彼を傷つけ、そのダメージは蓄積されてきたはずです。だからこそ、摩擦だらけのこの世界の複雑さに自分は意識的でいたい。誰かを無神経に傷つけたくない。この言葉の中には、そんな純の想いが零れ出ているように感じます。

人間はわからないものを恐れます。その恐れを乗り越えるために必要なのは「こういうものだから」「こういう人だから」と世界を単純化することではなく、相手に正面から向き合って寄り添おうと想像する力なのではないでしょうか。

もっと深めたいあなたに
  1. 摩擦をゼロにして、「違い」を認め合うことはできない。痛みを伴っても、あなたを知ることから始めたい
    神尾楓珠×草野翔吾監督 インタビュー
    摩擦をゼロにして、「違い」を認め合うことはできない。痛みを伴っても、あなたを知ることから始めたい
    『彼女が好きなものは』主演・神尾楓珠さんと草野翔吾監督インタビュー。
    相手との摩擦を恐れないことで見えてくる世界について、お二人と一緒に考えてみました。

↓『彼女が好きなものは』サウンドトラックを聴く!

彼女が好きなものは (Original Soundtrack)

BACK NUMBER
INFORMATION
『彼女が好きなものは』
出演:神尾楓珠 山田杏奈
前田旺志郎 三浦獠太 池田朱那
渡辺大知 三浦透子
磯村勇斗 山口紗弥加 / 今井 翼
監督・脚本:草野翔吾
原作:浅原ナオト「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」(角川文庫刊)
配給:バンダイナムコアーツ、アニモプロデュース
©2021「彼女が好きなものは」製作委員会
全国ロードショー中
⾼校⽣の安藤純(神尾楓珠)は⾃分がゲイであることを隠している。
ある日、書店でクラスメイトの三浦紗枝(山田杏奈)が、男性同⼠の恋愛をテーマとした、いわゆるBLマンガを購⼊しているところに遭遇。
BL好きを隠している紗枝から「誰にも⾔わないで」と口止めされ、そこから2人は急接近。しばらしくて、純は紗枝から告白される。
「⾃分も“ふつう”に⼥性と付き合い、“ふつう”の人生を歩めるのではないか?」。
一縷の望みをかけ、純は紗枝の告⽩を受け⼊れ、付き合うことになったのだが・・・。
PROFILE
映画・演劇ライター
八巻綾
Aya Yamaki
映画・演劇ライター。テレビ局にてミュージカル『フル・モンティ』や展覧会『ティム・バートン展』など、舞台・展覧会を中心としたイベントプロデューサーとして勤務した後、退職して関西に移住。八巻綾またはumisodachiの名前で映画・演劇レビューを中心にライター活動を開始。WEBサイト『めがね新聞』にてコラム【めがねと映画と舞台と】を連載中。
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