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どうしても語らせてほしい一本「明日仕事を休みたくなる映画」

仕事も休めばいい、恋もなんとだってなる。人生の舵は、自分が握っているのだ『嗤う分身』

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ひとつの映画体験が、人生を動かすことがあります。
「あの時、あの映画を観て、私の人生が動きだした」 そんな自分にとって特別な、そして誰かに語りたい映画体験記。
今回のテーマは、「明日仕事を休みたくなる映画」です。 検索エンジンの窓に「はたらきたくない」と打ち込んでみたことはありませんか? 日曜日の夜、「仕事いきたくない」と1人で呟いていたことは…? はい、誰にでもあります「仕事休みた〜い!」と思うこと。
そんな時に、「仕事が休みたくなる映画」はいかがでしょう? 「仕事に行きたくなる映画」ではありませんよ。さらに「仕事が休みたくなる映画」を観てみるのです。そしたら、どんな感情が沸き上がってくるのでしょうか…!?

人生の舵は
自分が握っているのだ 『嗤う分身』

「明日、仕事を休みたくなる映画」とは、どんな映画でしょう? ここには2つの解釈があると思います。1つは、鑑賞後「明日くらい仕事にとらわれずに、自分のリフレッシュに充てよう。思うがままに生きるんだ!」と自分の人生に前向きな気分になるもの。もう1つは、「あかん……なんで働いてるのかわからなくなっちゃった。ちょっと休んで考えさせて」という日常や現状にやや後ろ向きな気分になるもの。ただ、どちらも共通して「自分の人生に“気づき”を与えてくれる」作品なのではないでしょうか。

その、前向きと後ろ向き、両方の要素を兼ね備えている映画があります。ジェシー・アイゼンバーグとミア・ワシコウスカが共演し、『サブマリン』(2010)のリチャード・アイオアディ監督がメガホンをとった『嗤う分身』(2014)です。この作品は、自分の映画人生の中で、間違いなく「心を救われた」1本です。

ただ、この『嗤う分身』は、決して優しかったり、愛らしかったり、ポジティブな要素に満ちているわけではありません。むしろその逆で、ドストエフスキーの小説『二重人格』を題材に、「仕事のスキルもコミュニケーション能力も、あらゆる面で優れている自分の“上位互換(仕事や特技など共通する部分が多いが、格上であること)”的な分身が現れたら、どうする?」という最悪のシチュエーションを描いた、ぞっとするような不条理劇です。

日陰の人生を歩いている会社員サイモン(ジェシー・アイゼンバーグ)は内気な性格で、仕事も上手くこなせず、ひそかに思いを寄せる同僚ハナ(ミア・ワシコウスカ)にも想いを伝えられないでいます。そんなある日、自分とうり二つのジェームズが職場にやってきます。しかし、彼の中身はサイモンと正反対。クレバーで人当たりがよく、デキる男のジェームズは、すぐに社内の人気者に。サイモンの人生は、次第にジェームズに侵食されていきますが……。

私は、今作を観て、のび太が、自分の影を切り取って使役できる「かげきりばさみ」という道具を使った結果、自分の影に取って代わられる恐怖を描いた『ドラえもん』の名エピソードのひとつ、『かげがり』を思い起こしました。自分の分身が、あっという間に自分のポジションを奪っていく…まさに悪夢ですよね。だけれど最後まで観ると、不思議な活力が胸の中に宿っているのです。例えるなら、劇薬のような効能を私は感じました。

本作が日本公開を迎えた2014年の秋、自分はひどい失恋をして、その傷が何か月も癒えない状態でした。新たな恋が始まりかけたと思ったらまた壊れて、仕事も手につかなくなってしまい、心身ともにボロボロになりながら渋谷をさまよっていた時、いまはなき映画館シネマライズの看板が目に入り込んできました。吸い込まれるように館内に入り、この映画を観て、日常に帰ってきた私は、なぜだか「生きよう」と思えました。

仕事も休めばいい、恋もなんとだってなる。自分の人生は、自分で取り返す――。全編を通して不遇な目に遭い続けるサイモンが最後に見せる強烈なカウンターパンチに、かけがえのない勇気をもらえたのです。

自らの“いま”を把握して、そのうえで肯定するのか、それとも否定するのか……ただ、どちらであっても自身が選択することであり、舵は他ならぬ自分が握っているのだということ。

1本の映画としても、奇抜で奇天烈でアーティ。レトロモダンな美術、歪なカメラワークにくすんだ色調、ジェシーの見事な一人二役に、ミアの神々しいまでの美しさ等々、他にはない魅力にあふれた『嗤う分身』はあれ以来ずっと僕にとって大切な映画です。

BACK NUMBER
FEATURED FILM
要領が悪く存在感の薄いサイモン・ジェームズ(ジェシー・アイゼンバーグ)は周囲からまともに相手にされず、向かいの部屋に住む職場の同僚ハナ(ミア・ワシコウスカ)を望遠鏡でのぞくパッとしない毎日を送っていた。そんなある日、彼と生き写しのような新人ジェームズ・サイモン(ジェシー・アイゼンバーグ)が入社してくるが、職場では誰もジェームズの存在に驚かない。容姿は同じでも性格は全然違うジェームズの登場により、サイモンは追い詰められていき……。
監督:リチャード・アイオアディ
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、ミア・ワシコウスカ、
ウォーレス・ショーン、ノア・テイラー
PROFILE
映画ライター・編集者
SYO
1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、独立。
映画・アニメ・ドラマを中心に、インタビュー、レビュー、コラム等を各メディアやパンフレットに寄稿&映画情報番組にも出演。
カフェ巡りと猫をこよなく愛する。
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