PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば

どうしても語らせてほしい一本 「映画でお出かけ、旅気分!」

“今すぐ”でなくていい。
“いつか”「ここじゃないどこか」へ行くときのために。
『ゴーストワールド』

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ひとつの映画体験が、人生を動かすことがあります。
「あの時、あの映画を観て、私の人生が動きだした」
そんな自分にとって特別な、そして誰かに語りたい映画体験記。
今回のテーマは、「映画でお出かけ、旅気分!」です。
よく人生は旅に例えられます。かのスティーブ・ジョブズは「旅の過程にこそ価値がある」という言葉を残しました。なかなか気軽に外出できない今だからこそ、映画で世界を巡りながら、自分の人生の旅に出てみてはいかがでしょう? そこに新たな変化へのヒントがあるかもしれませんよ!

今回のテーマは「映画でお出かけ、旅気分!」。でも、いまのこの状況では簡単に「外に出よう!」とは言えない。そこで僕は「この世界」から、いつか抜け出したときのための映画をひとつ選びました。今すぐに、ではなくていい。いつか、あなたや僕が「ここじゃないどこか」へ行くときに、そっとバッグにいれておく、お守りになるような映画。

僕が初めてこの映画を観たのは、京都に住んでいた大学生の頃でした。京都にはトランスポップギャラリーというグラフィックノベルやZINEを取り扱ったとても面白いお店があり(運営をしているPresspop【プレスポップ】という出版社は、たくさんのグラフィックノベルを日本に紹介しています)、その影響もあって僕はこの映画に夢中になりました。

ダニエル・クロウズによるグラフィックノベルの金字塔的作品を映画化した、テリー・ツワイゴフ監督の『ゴーストワールド』(2001)。グラフィックノベルというのはざっくり簡単にいってしまえば、小説と漫画のちょうどその間にあるようなもので、エイドリアン・トミネやクリス・ウェアという作家の作品は、ここ日本でも翻訳されているし比較的に手に入りやすいと思います。2017年に翻訳版が出たエイドリアン・トミネの『キリング・アンド・ダイング』は、グラフィックノベルのなかでも重要な傑作で僕も本当に大きな影響を受けました。(是非映画とセットで原作やこれらの作品にも触れてみてください。)

郊外の小さな町に暮らす、2人の女の子。映画は彼女たちが高校を卒業するシーンからはじまります。周りのことを小馬鹿にしながらも割とうまくやっているレベッカと、要領よく世界との距離感をコントロールできないイーニド。彼女たちは町の全てにへらへらと中指を立てながらシェイクを飲み、ぶらつき、そして退屈している。この町で仕事を見つけ暮らしていこうとするレベッカと、なにもかもに居心地が悪く感じるイーニドの関係は、古いレコードを収集する中年男性のシーモアや冴えない友達のジョシュらとの交流、そしてイーニドに訪れる大きな選択によって揺らいでいってしまう。そんなある夏休みの物語です。

小さな町から出る、ここじゃないどこかへ行く、というのは海のそばにある小さな町で育った僕にとって、とても身近なテーマでした。その場所に居続けることを選ぶレベッカ(原作のコミックでは彼女自身が感じているいらだちや不安も描かれています)と、離れることを選ぶイーニド。それは単に、大人になるとか、なにかを諦めるとかそういうことだけではなくて、世界との距離感をどう図るか、ダメなままでどこまで行けるのか、ということでもあるのです。ぼくはあの小さな町を出て、ここまで歩いてきました。いいこともよくないこともあったし、今自分がいるこの場所こそが正しい場所だとも思っていません。ぼくの足元はいまだにぐらぐらな夢や不安でできているのです。

その時その時、選択していくことで何本にも別れてきた道は、振り返ることはできても戻ることはできません。そしてまた新しい選択をするときがくる。レベッカとイーニドが選んだ答え、そのどちらも間違っていないし、正しくもないような気がするのです。僕たちはこれからもそうやって色んなことを選んでいく。レベッカが選ばなかった「ここじゃないどこか」を想うとき、イーニドもまた通り過ぎてきた「ここじゃないどこか」のことを想うのだろう、と。この映画や原作に触れるたびに、そのふたりが、小さなあのゴーストワールドから出ることを選んだ自分のなかに確かにいるように感じるのです。「卒業」や「旅立ち」といったことばでは掬いきれないものがこの物語にはたくさん詰まっていて、僕はこれからも「ここじゃないどこか」を思うときにそっと取り出すのでしょう。

ラストシーンで彼女が乗るバスはどこへ向かうのだろうか、その窓はどんな景色を、そして彼女自身のどんな表情を映すのだろうか。向かい先にある町だってただ「ここじゃない」だけの、同じようなゴーストワールドなのかもしれません。

BACK NUMBER
FEATURED FILM
監督: テリー・ツワイゴフ
オリジナル・コミック・脚色: ダニエル・クロウズ
製作: ジョン・マルコヴィッチ
撮影: アフォンソ・ベアト
出演者: ソーラ・バーチ スカーレット・ヨハンソン スティーヴ・ブシェミ ブラッド・レンフロ
イーニドとレベッカは幼なじみで親友。高校を卒業したものの、進路も決めずに好きなことをして楽しんでいる。そんなある日、二人はモテないレコードマニアの中年男、シーモアと出会う。ダサイけど独特な世界を持つシーモアにイーニドは興味を持ち、二人の間には奇妙な友情が芽生える。一方、レベッカは独立を目指してカフェで働き始め、イーニドとレベッカはお互いに距離を感じ始める。
PROFILE
ミュージシャン
福富優樹
Yuki Fukutomi
1991年5月生まれ石川県出身。Homecomingsのギター担当。最近のマイブームはランディ・ニューマン。好きな食べ物はかけ蕎麦と中華。パッと思いつく好きな映画は「ロイヤルテネンバウムス」「スモーク」「ファーゴ」「トュルーマン・ショウ」。ビルマーレイが大好き。シンプソンズも好き。映画の上映とバンドのライブ、zineの制作が一体となったイベント「NEW NEIGHBORS」をイラストレーターのサヌキナオヤとバンドの共催で定期的に行っている。これまでの上映作品は「アメリカン・スリープオーバー」「ヴィンセントが教えてくれたこと」「スモーク」「ゴーストワールド」。Homecomings福富優樹がストーリーを、イラストレーター・サヌキナオヤが作画を手がけた漫画作品『CONFUSED!』の単行本が発売中。
5月には、メジャーデビューアルバム『Moving Days』をリリース。アルバムに収録される『Herge』(読み:エルジェ)がテレビ東京ドラマ25「ソロ活女子のススメ」のエンディングテーマに決定。
Homecomings HP: http://homecomings.jp/
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