PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば

どうしても語らせてほしい一本「新しい世界の扉を開いてくれた映画」

映画って、こんなに自由でいいんだ。そんなことを気づかせてくれた『はなればなれに』

SNSで最新情報をチェック!
はなればなれに
ひとつの映画体験が、人生を動かすことがあります。
「あの時、あの映画を観て、私の人生が動きだした」 そんな自分にとって特別な、そして誰かに語りたい映画体験記。
今回のテーマは、「新しい世界の扉を開いてくれた映画」です。
今回の語り手
ライター
竹島ルイ
Rui Takeshima
ヒットガールに蹴られたいポップカルチャー系ライター。映画を中心に各種媒体にてレビュー・解説記事を執筆。ポップカルチャーレビューサイト「POP MASTER」(https://popmaster.jp)主宰。

新しい世界の扉を開いてくれた映画

「ゴダールの映画、観に行かない?」

そう女の子に聞かれて、僕は若干テンパリ気味で「え? ゴダール? ゴダールね、いやーゴダールってとてもいいよね、僕はすっごくゴダール好きなんだよ、本当に映像もクールだし、音楽もサイコーだよね、いやすごく興味あるし、ぜひ観たいと思っているし、一緒に行くのはやぶさかではないかな」と超早口でまくし立てました。

当時僕は20歳の美大生で、専攻は映像学科。当然周りは博覧強記なシネフィル(※1)ばかり。『バグダッド・カフェ』(1987)とか『ベルリン・天使の詩』(1987)とか、同級生たちはお洒落な映画をたくさん語り合っていました。でも僕が夢中だったのは、『スター・ウォーズ』シリーズや『インディ・ジョーンズ』シリーズといった、分かりやすいハリウッド娯楽大作ばかり。正直ジャン=リュック・ゴダール(※2)の映画なんて、かろうじて『気狂いピエロ』(1965)をチラ見したくらい。おまけに話は全然分からないし、会話の内容はチンプンカンプンだし、カット割りは何か変だし、音楽の使い方はおかしいし、主人公はラストで死んじゃうし…。一作だけなのに、僕は軽い“ゴダール・アレルギー”になっていました。

でも誘ってくれたのは、僕が密かに好意を抱いていた女の子。彼女は同じ大学の同級生で、映像学科ではなかったけれど、僕よりもはるかにマニアックな映画を知っていて、僕の好奇心をたくさん刺激してくれる存在でした。彼女と二人っきりでデートに行きたい一心で、特に興味もないのに、いや、むしろかなり苦手なゴダール映画を観に行くことになったのです。

映画のタイトルは、『はなればなれに』(1964)。日本では長らく未公開で、製作から37年後となる2001年に、やっと劇場公開された“ゴダール伝説の作品”。ヌーヴェルヴァーグ(※3)の女神アンナ・カリーナと、端正な二枚目のサミー・フレイと、粗暴なクロード・ブラッスールのカルテットが織り成す、典型的なボーイ・ミーツ・ガール・ストーリーです。

この作品は、僕にとって驚きの連続でした。登場人物が沈黙すると、まわりの自然音すらミュートされてしまう“音”への実験的アプローチ。カフェで突然踊り始めるマディソン・ダンスの素晴らしさ。主役の3人がルーブル美術館を走り抜けていく爽快感。「映画ってこんなにデタラメでいいんだ!」と大感動したことを、昨日のことのように覚えています。

クエンティン・タランティーノもこの作品の大ファンで、自分の映像製作会社「A Band Apart Films」の名前は、『はなればなれに』の原題から引用したんだとか。僕はこの映画をきっかけにゴダール・アレルギーを克服し、『女は女である』(1961)、『女と男のいる舗道』(1962)、『アルファヴィル』(1965)と、遅まきながら彼の作品を追いかけ始めました。同級生の彼女は、僕に新しい世界の扉…既存の表現に縛られない、どこまでも自由な映画の扉を開いてくれたのです。

思い返してみれば僕があの娘に惹かれていたのも、その自由奔放なキャラクターにありました。枠にハマった考え方しかできない自分にとって、憧れの存在でもありました。今でもアンナ・カリーナを見るたびに、僕は大学生だった頃の彼女の姿を重ね合わせてしまうのです。

※1:映画通、映画狂を意味するフランス語「cinéphile」の事。

※2:フランスの映画監督。長編映画デビュー作となった『勝手にしやがれ』(1960)が、1960年にベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞し、ヌーヴェルヴァーグを代表する監督として世界的に有名になる。他に代表作として、『気狂いピエロ』(1965)などがある。

※3:フランスで1950年代後半から始まった、古くからある硬直化した映画システムの批判的な存在として誕生した新しい映画づくりの動き。「新しい波」を意味する。

BACK NUMBER
FEATURED FILM
監督:ジャン=リュック・ゴダール
出演:アンナ・カリーナ、サミー・フレイ、クロード・ブラッスール、ルイーザ・コルペイン
ジャン=リュック・ゴダールがアメリカの犯罪小説を元に描いたポップでスリリングな犯罪メロドラマ。
冬のパリ。フランツとアルチュールは偶然知り合った美しい女性・オディールと共に、彼女の叔母の家から大金を盗む計画を立てるのだが…。
PROFILE
ライター
竹島ルイ
Rui Takeshima
ヒットガールに蹴られたいポップカルチャー系ライター。映画を中心に各種媒体にてレビュー・解説記事を執筆。ポップカルチャーレビューサイト「POP MASTER」(https://popmaster.jp)主宰。
RANKING
  1. 01
    有村架純 インタビュー
    「役者は向いてないと思うこともある」揺らぎ、悩み、前進する有村架純25歳。
  2. 02
    cineca 土谷未央のバースデーケーキショップ vol.4
    贈りもののバースデーケーキ
    『さよなら、私のロンリー』
  3. 03
    吉野北人(THE RAMPAGE from EXILE TRIBE) インタビュー
    吉野北人が夢を実現させるため、問い直す「なりたい自分」
  4. 「のぐそ部」のころ 04
    山田真歩のやっほー!シネマ 第21回
    「のぐそ部」のころ
  5. 真田広之と田中泯。役者の身体を通して「生」を取り戻す『たそがれ清兵衛』 05
    嗚呼、こんなにも魅惑的な登場人物たち! 第12回
    真田広之と田中泯。役者の身体を通して「生」を取り戻す『たそがれ清兵衛』
  6. 「えぐみ」のある、キミが好き。 “あたりまえ”を逆転させた、あなたと映画 06
    間宮祥太朗 インタビュー
    「えぐみ」のある、キミが好き。
    “あたりまえ”を逆転させた、あなたと映画
  7. 映画好きなら誰もが一度は触れている、大島依提亜さんのデザインの秘密にせまる! 宝物のようにとっておきたくなるポスター・パンフレットとは? 07
    グラフィックデザイナー 大島依提亜 インタビュー
    映画好きなら誰もが一度は触れている、大島依提亜さんのデザインの秘密にせまる!
    宝物のようにとっておきたくなるポスター・パンフレットとは?
  8. 「耳」を映画館の環境に! おうち映画をもっと楽しむ、おすすめヘッドホン・イヤホン9選 08
    映画鑑賞におすすめ! おすすめヘッドホン・イヤホン特集
    「耳」を映画館の環境に!
    おうち映画をもっと楽しむ、おすすめヘッドホン・イヤホン9選
  9. 「人との距離感」 誰もがカメラを持つ時代に、どう見極めてる? 09
    ムロツヨシ×𠮷田恵輔監督 インタビュー
    「人との距離感」 誰もがカメラを持つ時代に、どう見極めてる?
  10. スカーレットはいじわるキャラ?女性が自分で人生を決め、自分の力で生き抜くということ『風と共に去りぬ』 10
    嗚呼、こんなにも魅惑的な登場人物たち! 第16回
    スカーレットはいじわるキャラ?女性が自分で人生を決め、自分の力で生き抜くということ『風と共に去りぬ』
シェアする