PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば

どうしても語らせてほしい一本 「大事な人と観たい、大事な人に届けたい映画」

人に嫌われるのが怖くて、自分自身を隠してしまうことがあるけれど。素直になりたい。『トランスアメリカ』

SNSで最新情報をチェック!
©2005 Transparent Films LLC
ひとつの映画体験が、人生を動かすことがあります。
「あの時、あの映画を観て、私の人生が動きだした」
そんな自分にとって特別な、そして誰かに語りたい映画体験記。
今回のテーマは、「大事な人と観たい、大事な人に届けたい映画」です。
あなたが今映画を一緒に観たい、届けたい人は誰ですか?

ついつい、“本当の自分”を隠してしまうことって、ありませんか? 自分の意見を主張したら嫌われるのではないか、ありのままの自分を見せても受け入れられないのではないかと不安になってしまうからです。“本当の自分”を隠してしまうのは、その相手が自分にとって大切な人だから。でも、だからこそ、お互いに良いところも悪いところも全部さらけ出し受け止め合い、まるっと愛せるような関係を築きたいと、本当は思っているのですが…。

そんな理想を現実ではなかなか実行できず、もどかしさを感じていた時、一本の映画に出会いました。アメリカ横断の旅に出る親子を描いた『トランスアメリカ』(2005)です。今作には、大切な人と関係を築くためのヒントが隠されていました。

©2005 Transparent Films LLC

主人公は、自身の性別が男性であることに違和感を持つ、トランスセクシュアルのブリー(フェリシティ・ハフマン)。ある日、ブリーのもとに、トビー(ケヴィン・ゼガーズ)という少年からニューヨークで警察に捕まったという連絡が入ります。彼は、自分の父親である“スタンリー”と話したいと言うのです。その名前は、ブリーが男性として暮らしていたときの名前でした。この時初めて、息子の存在を知ったブリーは戸惑いながらも、彼を保釈するためニューヨークへ向かいます。そして、息子と対面したブリーは、自分が父だと明かさないまま、二人でニューヨークからロサンゼルスへの大陸横断(=トランスアメリカ)の旅に出かけることを決めるのです。

私は、旅の道中でブリーが“本当のこと”を話せないでいる姿に、いつしか自分自身を重ねていました。そして、自信のない自分を見せられているような気がして、だんだん居心地が悪くなってきたのです。と同時に、誰かを信じられない時とは、実は自分自身が傷つくのが怖い時でもあるのだなと、客観的に自分を捉えられたような気がしました。

ついにブリーは“本当のこと”を息子に話すのですが、彼はそれを受け入れられず、二人の関係は破綻を迎えます。しかし、それから時間をおいて、再開の時が訪れます。そんな二人の姿は、少しぎこちなくもありますが、お互いに認め合っている“本当の関係”に、私は見えました。

©2005 Transparent Films LLC

“本当の自分”をさらけ出したり、本心を打ち明けたりすることで、傷つくことがあるかもしれません。もしかしたら、その結果、離れてしまう人もいるかもしれません。けれど、本当に大切な人とは、多少ぶつかりあったとしても、お互いのどんな姿も受け止められる関係でいたいと、二人の姿を見て改めて思いました。

理想の関係は待っていても手に入れることはできません。ブリーのように自ら行動に移すことで「築いていくもの」。自分をさらけ出すということは、とても怖いけれど、それ以上に本当の自分を隠し続ける人生のほうがずっと辛いはず。たとえ、ブリーとトビーのようにお互いを理解しあうことに時間がかかったとしても、大切な人との未来を考えるのであれば、その方がずっといい。

だから、自分自身を隠してしまいそうになった時は、ちょっと立ち止まって、二人が再会した時の姿を思い出し、素直な自分を出してみたいと思います。

BACK NUMBER
RANKING
  1. 01
    山田真歩のやっほー!シネマ 第16回
    猫と留守番しながら思ったこと
  2. 02
    蒼井優×高橋一生 インタビュー
    「ゆだねられている」という幸せ。緊張と付き合うためのバランス力とは?
  3. 03
    山田真歩のやっほー!シネマ 第15回
    いつでも口ずさむ歌があれば
  4. “おうちシネマセット”6選 「映画×ポップコーン×飲み物」 ベストマッチを探せ!! 04
    【特集】おうち映画がもっと特別になる「ポップコーン」の世界 前編
    “おうちシネマセット”6選
    「映画×ポップコーン×飲み物」
    ベストマッチを探せ!!
  5. 一人で悩まなくてもいい。 一緒に考えてくれる人が周りにきっといるはず 05
    シム・ウンギョン×松坂桃李 インタビュー
    一人で悩まなくてもいい。
    一緒に考えてくれる人が周りにきっといるはず
  6. 2020年9月13日 石井玄の映画日記 06
    映画を観た日のアレコレ No.20
    2020年9月13日
    石井玄の映画日記
  7. 女も男も、不必要にニコニコしなくていい。だってそれは芯の強さの表れなのだから 07
    黒沢清監督 インタビュー
    女も男も、不必要にニコニコしなくていい。だってそれは芯の強さの表れなのだから
  8. 理解できない! それなのに、危険な存在に惹かれてしまう怖さって? 08
    嗚呼、こんなにも魅惑的な登場人物たち! 第2回
    理解できない! それなのに、危険な存在に惹かれてしまう怖さって?
  9. 僕たちはいつだって世界を旅することができる。 タンタンと僕と『タンタンと私』 09
    シアタールームの窓から 第2回
    僕たちはいつだって世界を旅することができる。
    タンタンと僕と『タンタンと私』
  10. 2020年9月27日 和田ラヂヲの映画日記 10
    映画を見た日のアレコレ No.21
    2020年9月27日
    和田ラヂヲの映画日記
FEATURED FILM
トランスアメリカ
監督・脚本:ダンカン・タッカー
エグゼクティブプロデューサー:ウィリアム・H・メイシー
主題歌:ドリー・パートン 『Travelin’ Thru』
キャスト:
フェリシティ・ハフマン 『デスパレートな妻たち』(吹替…戸田恵子)
ケヴィン・ゼガーズ 『ドーン・オブ・ザ・デッド』
フィオヌラ・フラナガン 『フォー・ブラザーズ/狼たちの誓い』
エリザベス・ペーニャ 『ラッシュアワー』
キャリー・プレストン 『マーキュリー・ライジング』
バート・ヤング 『ロッキー』シリーズ
グレアム・グリーン 『ダンス・ウィズ・ウルブズ』
©2005 Transparent Films LLC
かねてから男性であることに違和感を持つ“トランスセクシュアル”のブリーは、LAで女性として慎ましく暮らしていた。そして念願だった“本当の女性”になるための手術を控えた彼女に、ある少年がNYで警察に捕まったという連絡が入る。それは、ブリーがかつて“スタンリー”という男性だった17年前に生まれたという実の息子・トビーだった。想像もしなかった自分の子供の存在に戸惑うブリー…。
この件を整理するまでは手術が受けられなくなったブリーはNYへ。顔を合わせた2人はひょんなことからNYからLAへの大陸横断<トランスアメリカ>の旅に出ることになる。ブリーは女性として自分が父親であることを隠したまま、トビーは俳優という夢を追いかけ、そしてまだ見ぬ実の父親を探すために…。
シェアする