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生きている限り、何者にも奪われないものがある
人生は短いようで長いです。
その中で、だれもが仕事や恋愛、趣味やスポーツと情熱を傾けることができるもの、またはこの人しかいないと思うほど大好きな人と出会ったり、このジャンルではだれにも負けないと思ったりしたことを見つけられたりと、そんなことがあるのではないかと思います。しかし、それらは必ずしもうまくいったり成功したりするものではありません。
希望や夢を抱きながらも、様々な困難や現実のきびしさを知り、挫折を味わったことがあるのではないでしょうか。その抱いた希望や夢や理想が高ければ高いほど、もうチャンスは二度と来ないのではと思ってしまいます。
そんな時に、自分は必ず観る映画が一本あります! 大戦中にドイツ軍の捕虜になったポール・ブリックヒルの小説を、名匠ジョン・スタージェス監督が映画化した『大脱走』(1963)です。
実話を基につくられた作品で、第二次世界大戦のさなかドイツ捕虜収容所に送りこまれた250名に及ぶ連合軍将兵たちの集団脱走計画をスリリングに描いています。脱出不可能といわれる捕虜収容所に集められた連合軍将兵たちが、自由と尊厳を取りもどすべく、集団となって綿密な計画を立て前代未聞の脱走計画を進めていきます。
文字通り生きるか死ぬかの計画が進んでいき、それぞれがうけもつ責任と個性がぶつかりあいながらも、集団でひとつひとつ積み重ねていくことの大切さを噛みしめ、邁進していきます。一方で集団に属さない一匹狼的な存在でヒルツ(スティーブ・マックイーン)というアメリカ大尉が登場してきます。
彼はこの計画以外でもほとんど単独で脱走を17回も試みる強者で、「集団」で事を成す素晴らしさとは別の、「個人」の自由な発想と行動で事を成す素晴らしさをスクリーンに刻みつけていきます。
こうして物語は後半の大脱走を迎えます。結果は250名のうち76名が脱走するものの完全に脱走できたのは3名、死者50名という苦い結果となります。
映画も暗い雰囲気が漂う中、ある人の登場で空気が一変します。それは一人の男が脱走に失敗して収容所にもどってきてからです。そう、不屈の魂を持つヒルツです。収容所ではこれほどの不祥事を引き起こした責任で収容所所長が解任されます。新任のゲシュタポ将校との引きつぎの最中で、その新所長と向かいあうヒルツ。
彼は桃戦するような不敵な笑いを浮かべると自ら独房へ歩きはじめます。ヒルツは自分の持ち物であるグローブとボールをにぎりしめて、捕虜である仲間たちに「ただいま」とあいさつをします!
その目は早くも次に向かっています。仲間たちにもその気持ちが伝わるのです。生きている限り、何者にも奪われないものがある。それは希望という、人間である限りだれもが持っている尊厳です!
自分自身43才になった時に母が脳梗塞で倒れたので、実家の広島にもどる決断をしました。約10年、母の介護をし、53才の時に東京へ再び上京しました。それは、43才以前の東京にいる時、食えないながら役者を続けていたのですが、その夢捨てがたく、今の自分にも何か映画に関わることができないだろうか、数年のブランクがあっても必要とされることはないだろうか、そんな気持ちを持ち続け毎日を過ごしていたためです。
母の介護の間、役者を続けようというモチベーションになったのが、映画『大脱走』です。生きている限り何者にも奪われないものがある。諦めないで希望を持ち続ける大切さをヒルツたちは教えてくれました。
さらに、こちらの状況を知ったうえで、映画に出演しませんかと連絡をしてくださったり、「佐々木さんの都合に合わせるから」と言ってくれる仲間たちもいました。思い返しても本当に嬉しかったし感謝の気持ちでいっぱいです。同時に、自分はまだ役者をやりたいんだと思いました。子供の頃から夢みていたスクリーンにまた出たいと、自分の居場所を思い出したような感じでもありました。
そうした映画や友人の励ましによって、奮起したんだと思います。再び上京し、当時声をかけてくれた仲間たちにも協力してもらうことで、50代後半ついに自主映画を一本製作することができたのです!
人生において長いと感じたりするのは、実は自分の思い通りにいかなかったりする時ではないでしょうか。そんな時こそ、立ち止まり、辺りを見渡すことで、人生を有意義にするヒントやチャンスが転がっていたり、人生を豊かにする友達を確認できたりするものだと思います。
実際、日々を過ごす年月はあっという間だったのに、初めての映画製作は完成に向けて険しく、長く感じていました。しかし、その過程で友情を深めることができましたし、苦難を乗り切ることで、この歳になっても成長を感じたような気がします。決して悪いことばかりじゃありませんでした。ただ希望をもって解決にのぞむこと。人生は短いようで長い。『大脱走』はそんな時に自分に希望をあたえてくれた作品です。
- 介護の中、夢を捨てずにいられたのは、あいつの「ただいま」が希望に向かわせてくれたから。映画『大脱走』
- 眠れない夜に私を救ってくれたのは、70年前の名作ミュージカル映画だった 『雨に唄えば』
- ままならない家族への感情……それでも確かに愛してる。『シング・ストリート 未来へのうた』で描く私の夢
- 嘘の中の紛れもない「リアル」。 いつまでも彼の踊る姿を観たいと思った 『リトル・ダンサー』
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- 映画って、こんなに自由でいいんだ。そんなことを気づかせてくれた『はなればなれに』
- 日々の選択を、愛ある方へ。自分を大切にするための映画『パパが遺した物語』
- 大丈夫。あなたが私を忘れても、私があなたを思い出すから 『43年後のアイ・ラブ・ユー』
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- 幸せになるには、まず「幸せに気づく」こと。こんな2020年を希望にかえて締めくくる『食堂かたつむり』
- 仕事も休めばいい、恋もなんとだってなる。人生の舵は、自分が握っているのだ『嗤う分身』
- 号泣したワンシーンが、思いを届けるきっかけになる『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』
- 「私の人生、まんざらでもないのかも」見過ごしていた“当たり前”に魔法がかかる『顔たち、ところどころ』
- 東京という大きな「生き物」が、 人生の岐路に立つ人を静かにつつんでくれる『珈琲時光』
- 狂気を殺さない!愛してみる。生きていく『逆噴射家族』
- 動き出さない夜を積み重ねて、たどり着く場所がきっとある『ナイト・オン・ザ・プラネット』
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- 映画の物語よりも、そこに流れる「時間」に没入する 『ビフォア・サンセット』
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