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映画を観た日のアレコレ No.76

超歌手
大森靖子の映画日記
2022年11月20日

映画を観た日のアレコレ
なかなか思うように外に出かけられなかった時を経て、今どんな風に1日を過ごしていますか? 映画を観ていますか?
何を食べ、何を思い、どんな映画を観たのか。 誰かの“映画を観た一日”を覗いてみたら、どんな風景が見えるでしょう? 日常の中に溶け込む、映画のある風景を映し出す連載「映画を観た日のアレコレ」。
76回目は、超歌手 大森靖子さんの映画日記です。
日記の持ち主
超歌手
大森靖子
Seiko Oomori
超歌手。愛媛県出身。
美大在学中に音楽活動を開始し、2014年avex traxからメジャーデビュー。
自身の音楽活動は元より、執筆・楽曲提供、プロデュースと活動は多岐にわたる。
また、メンバーと共にステージに上がりながらプロデュースするグループ 「METAMUSE」など全プロダクトにおいて精力的な活動を展開中。

2022年11月20日

生きてボロボロになっていくという感覚は、傷ができたり肌が軋んだりそんなイメージだけど、ハードに使っている場所にばかりポリープができて、そこに悪いものができたら機能が完全に亡くなってしまう。こんなにも小さな肉芽でどうして全身や人生が全面的に傷ついて、意味がわからないよ。こんなちっちゃいしこりで、全てはメチャクチャになる。

人生二度めの痔の手術をした日。
日帰り手術とはいえ、安静にしなければならない日数が必要ということで、数ヶ月前から仕事の都合をつけ、いよいよ午前中、5個の肉芽みたいなものをお尻の穴から切除してもらった。真っ白でふさふさのカーリーヘアで一度も目が合わない痔の名医がサクサクと、摘んで切って、切ったものを見せてくれた。
乳歯や親知らずだったら「持ち帰ってもいいですか?」と聞くことができたが、さすがに言うことができなかった。家に帰ってしばらく眺めたかったのにな。
医者が「とれたものこちらになります」をしたくなる現象はなんなんだろう?
私もいつも息子の耳の穴を掃除した時「ほらこんなにおっきいのとれたよ」を必ずしたくなるし、自分の成果を見せたいのか、こんなにも大きいものが入っていたんだよという驚きを共有したいのか、どっちの感情なのかもわからないが、わからなくていいことだ。
うん、わからなくていいことだらけだ。

日帰り手術を終え、さて、おしりに負担をかけない活動をしよう。
私には映画にも漫画にも音楽にも、自分よりもその分野に特化したヲタクがいて、そのどれも特別に「好き」と言えない現象にある。
そして、“この人が見て面白いと言っているものはチェックしよう”リストの友達がいる。
おうちで観ることができる、”痔の手術をしたあなたにおすすめの映画♡あとみたい気分は恋したーいって感じかな♡”をたずねた。

•『トーク・トゥ・ハー』パッと浮かんだ映画はなぜかこれ。偏愛なお話。病院でてくる。
•『私が、生きる肌』
↑と同じ監督作だけどこっちのがミステリー強め。強引に言うとこっちも手術とかはからんでるw

•『彼は秘密の女ともだち』
•『わたしはロランス』
どっちもお前が好きだから勧めたいだけだろ、みたいな映画だけど、恋愛にまつわる映画そんな観てないから浮かんだのこんなの(泣)

•『セックスと嘘とビデオテープ』ちょっと古いけど、なんか引きこもるシチュエーション映画だったからなんとなく。

とのことで、ダントツでタイトルで気になるというか自分の世界観に近いなと一方的に思うのは『私が、生きる肌』だったけれど、1日の終幕があまりにそのまんまなことになってしまう。「私は今日! 私が生きる肌を手術代で買ったんだ! だからその心を映画で補助してもらう必要はないぞ!」と思い、友達のおすすめである『彼は秘密の女ともだち』観ることにした。まさに友達の人生そのものみたいな登場人物が出てきて、愛せる〜と興奮した。

「私は女だ」と言う感情は、私ですら、有しているとは限らない。
その感情をつよくもった瞬間の車ダイブシーン、1秒がどれくらい長かったか? まで感じられて、そういう描写は漫画であれ音楽であれ大好きだし、私のSFってそういう感覚だなといつも思う。
時間を自由に引き延ばしたり縮めたりできる人が、タイムトラベラーなんだ。

おすすめ全部観るぜー暇だぜーぐらいの感覚でいたけれど、映画を観るときっちり映画一本分の体力を脳が使っていて、若ければもう少し観られたな…もうやっぱり10代20代ではないんだな…いや手術のせいか。
夜中に痛がっていると、「医者にやるなって言われたこと全部やるから痛いんだ」と至極真っ当な意見が家族から飛んできて、正論マンに今日も完敗し1日は痛みの中終わった。

大森靖子の映画日記
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PROFILE
超歌手
大森靖子
Seiko Oomori
超歌手。愛媛県出身。
美大在学中に音楽活動を開始し、2014年avex traxからメジャーデビュー。
自身の音楽活動は元より、執筆・楽曲提供、プロデュースと活動は多岐にわたる。
また、メンバーと共にステージに上がりながらプロデュースするグループ 「METAMUSE」など全プロダクトにおいて精力的な活動を展開中。
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