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映画を観た日のアレコレ No.4

2020年5月10日
アーティスト草野絵美の映画日記

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なかなか思うように外に出かけられない今、どんな風に1日を過ごしていますか? 映画を観ていますか?
何を食べ、何を思い、どんな映画を観たのか。
誰かの”映画を観た一日”を覗いてみたら、どんな風景が見えるでしょう? 
日常の中に溶け込む、映画のある風景を映し出す連載「映画を観た日のアレコレ」。
4回目は、アーティスト草野絵美さんの映画日記です。
日記の持ち主
草野絵美(アーティスト)

2020年5月10日

世界が一変して早3ヶ月が経とうとしている。春から新小学2年生として学校に通うはずだった息子と、巣ごもり生活を謳歌している。レジャー施設にはいけない。けして、遠出も許されない。日々の息抜きは、近所にある緑の多い公園へのお散歩である。思い返せば、親になってからというもの、保育園と学童に頼りきりだったので、これほど息子と四六時中を過ごすのは、新生児期以来だった。仕事をしながらの子育ては、ストレスを感じる瞬間も多いが、すっかり、幼児から小学生男子と変貌を遂げた息子との日々は、喜びと関心の毎日である。

代わり映えない日々であるが、本日はこのような一日を過ごした。午前中はタイマーをかけて、家族全員それぞれの仕事や勉強に集中する時間。私が、サボりそうになれば、「僕も勉強するから、ママも仕事しなさい。」とお尻を叩かれる。その後、家族3人で昼食を済ませ、夫が電話会議をしている間、私は息子と恐竜の絵を描いたりと遊んですごす。そして、おやつにチーズケーキを食べ、ポケモンGoを片手に散歩にいった。今日も、バトルをするためにたくさん歩くことができた。規則正しい生活を送れるのも、息子のおかげかもしれない。

外出中はもちろんマスクを着用し、できるだけ遊具には近づかないようにする。そしていっしょに縄跳びをして運動不足を解消する。帰宅したら、すぐに湯船につかって、体を丸洗いし、夫が用意してくれた夕食を食べて団らんした。夕食後はたいてい、家族でゲームをしたり、工作したりそれぞれのクリエティブタイムを過ごす。週末は、映画鑑賞をすることが多い。ちなみに、我が家はテレビが存在しない。あるのは、モニターとNetflixの5万作品とAmazon Primeの 2万6000作品のみ。レンタルビデオ屋や映画館に出向かなくても、様々な国の様々な時代の、コンテンツを楽しむことができる実に良い時代に生きていると実感する。

とはいえ、子ども大人も同じくらい夢中になれる映画を探すのにもネタ切れをしてしまう時がある。おのずと、ディズニー、ジブリ、ドリームワークス、そして、90年代のアットホームなハリウッドという4択が定番になっている。「金曜ロードショー」で流れることを基準にするという表現と言ったらわかりやすいだろう。しかし、今夜はそのどれでもないものが無性に観たくなった。そんな時、息子がリストから選んだものはこれだった。2017年公開のアメリカのストップモーション映画、日本が舞台の『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』だ。アカデミー賞ノミネート映画だと描かれていた。日本では、美術館での単館公開。まさに、金曜ロードショーにはこないような作品だ。「こ、これが、ストップモーションアニメだと?」一瞬フルCGなのではないかと目を疑ってしまうほどのクオリティである。

特に、波打つ荒波、毛の一本一本は圧巻である。アニメーション製作会社のスタジオライカも馴染みがなく、ストップモーションアニメの長編も『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』でイメージが止まっていたが、まさか、親子共々にとってベスト映画の一つになろうとは…!

ストーリーは、いにしえの日本が舞台であり、三味線を使って折り紙を自由自在に操る少年が主人公の「Kubo」少年が親の仇を討つために、闇の魔力に挑むという話。「久保? 名字じゃないのか?」といろいろツッコミをしてしまいそうになり、視聴を躊躇する日本人もいるかもしれない。しかし、スタジオライカのアートディレクションチームを決して侮ってはいけない。日本文化に対してとめどないリスペクトを感じる作品なのだ!

和室、折り紙、家紋、刀の造形も美しく、ストーリーそのものにも「わびさび」の特性を巧みにエンターテインメントに昇華している。しかし、三味線の音色は、やはり唯一無二の存在感があるな。異国の制作陣が描く鮮やかな日本を通して、自らの文化の美しさを再認識させられた。多くの映画界の巨匠がそうであるように、監督は黒澤映画の大ファンだそうだ。

気が遠くなるほどの複雑な作業を経て、命がふきこまれていった個性豊かなキャラクターたちは、まるで生きているようだ。シャーリーズ・セロンが声優を務める、ニホンザルの仙人と折り紙でできた侍など個性豊かなキャラクターたちにも愛着を感じる。

また、結末は、いわゆるディズニー映画とは違ったエンディングだったが、なんともいえない多幸感があった。「世代を超えて、物語を語り継ぐことの意義とは?」そんな普遍的なテーマに果てしなく考えが巡らされた。

精神を病んでしまった母親がとてもリアルだったということと、少し戦闘シーンの迫力があったため、少々大人向けだったかなと思ったが、息子は楽しんでいた様子だった。本人曰く「もし、保育園の頃観ていたら怖かったかも。Kuboの勇気に感動した。」ということ。

観終わった後、「Kuboみたいに折り紙で人形を作ってうごかせないかな。」と、息子はおもむろに折り紙をとった。「ちょっとまってママは休んでいいよ。」と言われたのでソファーでくつろいでいると、プレゼントとして折り紙でカーネーションを作ってくれたのであった。そうか、今日は母の日か…!

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PROFILE
アーティスト
草野絵美
Emi Kusano
1990年、東京生まれ。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス環境情報学部卒業。東京藝大で非常勤講師。作品制作・執筆・ラジオやTVのMC・CM出演など活動の傍ら、歌謡エレクトロユニット《Satellite Young》を主宰。歌唱・作詞作曲・コンセプトワークを行う。再構築された80’sサウンドにのせて人工知能やオンライン交際など現代のネット社会や最新テクノロジーをテーマに歌う。2017年には世界最大の音楽フェス『SXSW』にSatellite Youngとして出演。現在は、メディア・アート作品も手掛ける。最新作は遺伝子操作や消費サイクルをテーマに倫理問題を問いかける『Insta Baby Generator』や水中ドローンを用いた移動式サンゴ「Floating Coral」等。
草野絵美HP: https://www.emiksn.com/
草野絵美twitter: https://twitter.com/emikusano
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