PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば

映画を観た日のアレコレ No.52

YouTuber
岡奈 なな子の映画日記
2021年10月18日

SNSで最新情報をチェック!
なかなか思うように外に出かけられない今、どんな風に1日を過ごしていますか? 映画を観ていますか?
何を食べ、何を思い、どんな映画を観たのか。 誰かの“映画を観た一日”を覗いてみたら、どんな風景が見えるでしょう? 日常の中に溶け込む、映画のある風景を映し出す連載「映画を観た日のアレコレ」。
52回目は、YouTuber 岡奈 なな子さんの映画日記です。
日記の持ち主
YouTuber
岡奈 なな子
Nanako Okana
映画と音楽をこよなく愛する女性。
築約50年の祖母の家に引っ越し、家族への遺影代わりに動画撮影を始める。昭和レトロな雰囲気とありのままを動画に収めるスタンスでYoutube動画投稿をメインに活動中。

2021年10月18日

「目が覚める」という表現は、ほかの感覚を表す慣用句としても用いられる。

誰しもがほぼ毎日経験するであろう「目が覚める」という感覚。
その誰にでも訪れる体験に由来して、いくつかの感覚を担うことができるほど「目が覚める」表現は人々に浸透している。

時はPM16:00。仕事柄私には決まった“起きる時間”がない。ある人から見ればこれ以上に幸せなことはないだろう。
しかし、こんな生活を何度も繰り返していると自己嫌悪の種のひとつとなりうる。
今日も時間を無駄にしてしまった。そうやって時間の有効活用について物思いにふけっていると、またしても睡魔が襲ってくる。気が付けばまた向こう側の世界にひとっとびである。

夕方から深夜に起きるという、昼夜逆転とも言えない狂った状況の中、気が向けば動画を撮影・編集。
それ以外はダラダラとインターネットの海に潜るかゲームである。
この生活に頭のてっぺんまで浸かってなお幸せを感じることができるのなら、それは天性のものであって、私はこの生活を享受してなおその才覚を持ち合わせていない。

目が覚めないのだ。

この「目が覚めない感覚」を、まさに会心の一撃たる威力で払拭してくれるものに出会える方法が、私にとって映画鑑賞である。

そして、強烈に「目が覚める」感覚を植え付けられる映画に出会う。
その作品が、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』(原題:Arrival)である。

いつも通り目が覚めない私は、手始めにインスタントラーメンを準備する。容器にお湯を注ぎ3分間。この間何かにすがるようにNetflixを起動し、ほぼ無意識的にかねてから気になっていたリストの中から上記作品を再生。
突如飛来する謎の黒い物体。それは所謂船であり、その中の地球外生命体「ヘプタポッド」の対処に人類は迫られることとなる。
彼らとの接触のため、主人公である世界的言語学者のルイーズ・バンクスは彼らが用いる象形文字のような言語の解読に取り掛かる。
物語は、この難解な言語の解読を進めるにつれてルイーズに度々フラッシュバックする「存在するはずのない記憶」が平行して散りばめられながら進行する。
果たしてこの言語を解読した先にあるヘプタポッドらが伝えたいメッセージは何なのか、そして、ルイーズにフラッシュバックする「存在しない記憶」の謎は何なのか。
私自身、この映画を通して何かを解読している気持ちになりながら夢中でその世界に浸かる。

そうこうしているうちに物語は終わり、エンドロールが流れる。2口ほどしか口をつけなかったインスタントラーメンは、すでに伸びてしまっている。
伸びたインスタントラーメンを義務的に口に運び、私は「目が覚めている」ことに気づく。
雷に打たれるような、肩を揺さぶられる様な衝撃的な目覚めではなく、まるで湯船に長い時間浸かり、暖かい浴室を後にコップの水を一杯飲んだかのような感覚。
じわじわと、しかしながら確実に「目が覚めた」のである。

私たちは、今まさに書いているこの文字や言語を介して他者とコミュニケーションをとる生き物である。インターネットを通して不特定多数の他者に向けて何かを発信している私は尚更のことであろう。
その私がふわふわとした感覚から何か物事が確信めいたものに変わる瞬間、まさに「目が覚める」感覚になった瞬間である。
きっと明日も、そのまた明日も私は目が覚めない。そんなこと、この生活が長い私が一番知っている。
しかし、この「目が覚める」感覚を、映画を通して一つ、また一つと寄せ集めていくのだ。 きっと「目が覚めない」ことにも意味があるし、それはもしかしたら普遍的な、それこそたいそうな言い方をすれば運命的な、一生付き纏う感覚なのかもしれない。
だからこそ今回紹介した作品のような「目が覚める」感覚を得ることができる作品を私は求め続けていくのではないか。

未来を受け止めるというのは、「目が覚める」感覚に似ているのかもしれない。そんなことを考えながら私は伸びきってしまったインスタントラーメンの最後の一口を口に運ぶのであった。

BACK NUMBER
FEATURED FILM
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー、フォレスト・ウィテカー
ある日、宇宙から飛来した巨大な楕円形の飛行体が地球の12ヵ所に突如姿を現わし、そのまま上空に静止し続ける。その目的が判然とせず、世界中に動揺と不安が広がる。やがて、最愛の娘ハンナを亡くした孤独な言語学者ルイーズ・バンクスのもとに、アメリカ軍のウェバー大佐が協力要請に訪れる。こうして同じく軍の依頼を受けた物理学者のイアンとともに、アメリカに飛来した飛行体の内部へと足を踏み入れたルイーズ。7本脚の異星人との接触を試み、飛来の目的を探るべく彼らが使う言語の解読に没頭していくのだったが…。
PROFILE
YouTuber
岡奈 なな子
Nanako Okana
映画と音楽をこよなく愛する女性。
築約50年の祖母の家に引っ越し、家族への遺影代わりに動画撮影を始める。昭和レトロな雰囲気とありのままを動画に収めるスタンスでYoutube動画投稿をメインに活動中。
RANKING
  1. 01
    林遣都×小松菜奈 インタビュー
    生きづらさを克服するのではなく、
    受け入れ生きていく
  2. 02
    桃山商事のシネマで恋バナ 第1回 【前編】
    無意識の二次加害? 『プロミシング・ヤング・ウーマン』が観客に問いかけているものとは
  3. 03
    熊谷和徳の映画往復書簡 #5
    父・熊谷和徳から
    娘・NiKiへ
    「立ち止まったっていいよ。」
  4. 加害者に優しいホモソーシャルの闇。奪われたのは「前途有望な未来」だけじゃない!? 04
    桃山商事のシネマで恋バナ 第1回【後編】
    加害者に優しいホモソーシャルの闇。奪われたのは「前途有望な未来」だけじゃない!?
  5. 「一番近い人間に思ってること言わないで じゃぁ誰と本音で付き合うんすか」 05
    映画の言葉『劇場版 きのう何食べた?』田渕剛のセリフより
    「一番近い人間に思ってること言わないで じゃぁ誰と本音で付き合うんすか」
  6. 覚悟とは、自分の限界値を暴き出すこと。その先にある「信じるもの」に、たどりつくために 06
    仲野太賀×大島優子×若葉竜也×石井裕也監督
    覚悟とは、自分の限界値を暴き出すこと。その先にある「信じるもの」に、たどりつくために
  7. 映画好きなら誰もが一度は触れている、大島依提亜さんのデザインの秘密にせまる! 宝物のようにとっておきたくなるポスター・パンフレットとは? 07
    グラフィックデザイナー 大島依提亜 インタビュー
    映画好きなら誰もが一度は触れている、大島依提亜さんのデザインの秘密にせまる!
    宝物のようにとっておきたくなるポスター・パンフレットとは?
  8. 「耳」を映画館の環境に! おうち映画をもっと楽しむ、おすすめヘッドホン・イヤホン9選 08
    映画鑑賞におすすめ! おすすめヘッドホン・イヤホン特集
    「耳」を映画館の環境に!
    おうち映画をもっと楽しむ、おすすめヘッドホン・イヤホン9選
  9. 「みんな我慢しているから、あなたも我慢するべき」という同調圧力。“姥捨て山”のある社会にしないために『楢山節考』 09
    嗚呼、こんなにも魅惑的な登場人物たち! 第8回
    「みんな我慢しているから、あなたも我慢するべき」という同調圧力。“姥捨て山”のある社会にしないために『楢山節考』
  10. ジャルジャル 福徳秀介の映画日記 2021年11月3日 10
    映画を観た日のアレコレ No.53
    ジャルジャル
    福徳秀介の映画日記
    2021年11月3日
シェアする