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映画を観た日のアレコレ No.9

俳優
酒井若菜の映画日記
2020年6月8日

映画を観た日のアレコレ
なかなか思うように外に出かけられない今、どんな風に1日を過ごしていますか? 映画を観ていますか?
何を食べ、何を思い、どんな映画を観たのか。
誰かの“映画を観た一日”を覗いてみたら、どんな風景が見えるでしょう?
日常の中に溶け込む、映画のある風景を映し出す連載「映画を観た日のアレコレ」。
9回目は、俳優 酒井若菜さんの映画日記です。
日記の持ち主
俳優
酒井若菜
Wakana Sakai
女優、文筆家。自身が編集長を務めるWebマガジン『marble』は毎月第二・第四金曜日配信。

2020年6月8日

すっかり昼夜逆転してしまったな、と複雑な気持ちで目が覚める最近。
起きて最初にするのはベランダに出ること。
太陽の位置を確認して、「ずいぶん高いところにいらっしゃること」と溜息とも深呼吸ともつかない呼吸をする。うん、まぁ気持ちいいからよしとしよう。

部屋に戻りなんとなくインスタをチェック(ちなみに公式ではやってません)。
私は食器と籠が好きなのだが、どうやら大好きなガラス作家の西山芳浩さんが青山のショップで展示をするらしいことを知る。
西山さんとは、NHKの番組でお会いしたことがある。金沢の工房で創作過程を取材させていただいた。作品はもちろんのこと、親切なお人柄にも感動し、以来大ファンである。
児玉三重さんの美しすぎる籠に、西山さんのガラスを飾っているのだが、先ほど自分が日光に当たって深く呼吸したことを思い出し、ガラスを日に当ててみる。美しや、美しや。

午後3時から歯医者。昔から通っているので、先生たちと会話するだけで楽しい。人と会うことを徹底的に避けて、3ヶ月も友人に会っていない私にとって、日常会話ができる貴重な時間であった。

帰りに梅酒の材料を買いにスーパーへ。ひととおり買い揃え帰宅。ふと、去年同じ量を作ったもののあっという間になくなってしまったことを思い出し、もう一度スーパーへ。まだ日も暮れていなかったので、散歩がてら少し遠いスーパーまで行った。

正式に(?)帰宅し、ポストにハガキが入っていることを確認。なんと、西山さんからのお手紙だった。展示のお知らせも書かれていた。今朝知ったところだったので、その偶然がやけに嬉しかった。取材から3年のときを経て初めての手紙だったんだもの。

18時前には適当に夕飯を済ませ、梅のヘタ取り、容器の殺菌消毒を済ませた。

クリームソーダが大好きなので、メロンシロップを炭酸水で割って、バニラアイスを乗っけて作る。ああ可愛い。なんて可愛いんだ、クリームソーダ。うっとりする。調子に乗ってたまたま冷蔵庫にあったアメリカンチェリーを乗せてみる。可愛いクリームソーダに似合ってなかったのですぐにどける。

私はお風呂が長い。2時間以上湯船から出たり入ったりを繰り返しながら、私が編集長をしているメールマガジン『marble』の次号表紙を決めたり、原稿の仕上げをしたり、友人とメールをしたり、のんびりダラダラする。
お風呂上がり、YouTubeを見る。今日は早めに寝ようかなと椅子から立ち上がる。
待てよ、明日梅酒を漬けるつもりだったが、なーんか、いま漬けたい。漬けたい漬けたい漬けたい。欲望に負け、結局ガラス瓶に梅と氷砂糖と酒を漬ける。
西山さんの作品のような繊細なガラスの容器ではないが、やはりガラスは綺麗だ。梅と氷砂糖がうごめくさまは、アクアリウムのようで美しい。
しばらく見つめる。満足したので今度こそ寝よう。

あ!!!! 映画!!! そうだ、今日は映画を観る日だった。

先ほどYouTubeで見たのは、チャップリンとヒトラーの人生を比較しながら歴史を学ぶ、という動画だった。
よし、せっかくだから『独裁者』を観よう。棚を漁る。探せど探せど見つからない。チャップリン作品は『街の灯』『ライムライト』しか見つからない。誰かに貸したんだったか。憶えていない。
よし、チャップリンはやめよう。散々迷い、今日は暑いから雪のシーンがあるウェス・アンダーソン監督映画『グランド・ブタペスト・ホテル』を観て涼むか、年に一度は観返すものの今年はまだ観てないフランシス・ヴェベール監督映画『奇人たちの晩餐会』『メルシィ!人生』か、の三択にまで絞る。
えー、もう午前1時だよ。いまから字幕はなぁ。自分で絞ったくせにブーブー言い出す。
それならば、ここはアニメでしょう。『うる星ヤツら2 ビューティフル・ドリーマー』を観始める。真っ暗な部屋で午前1時から観ると異様にこわい。やめる。

結果、『ズートピア』にした。表面上はウサギが主人公の可愛らしいお話だが、実はスラングがたくさん使われていたり、人種差別などの問題提起をしていたり、とても深い話である。子供は無邪気に楽しめ、大人は考えさせられる、二重構造の映画とも言えるし、子供たちが知識ではなく本能でなにかを感じてくれたらいいな、と思える作品でもある。もっと評価されてほしい映画だとつくづく思う。

映画が終わると、カーテンの隙間から光が差し込んでいた。
明日も目が覚めたら、私はベランダで太陽の位置を確認して、「ずいぶん高いところにいらっしゃること」と溜息とも深呼吸ともつかない呼吸をするだろう。
「これは深呼吸よ!」と誇らしげに手を広げ、口角を上げ、どんなに寝坊しても照らしてくれる太陽に「おはよう」と挨拶することからはじめてみようと思う。

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PROFILE
俳優
酒井若菜
Wakana Sakai
女優、文筆家。自身が編集長を務めるWebマガジン『marble』は毎月第二・第四金曜日配信。
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