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映画を観た日のアレコレ No.35

サヘル・ローズの映画日記
2021年1月21日

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なかなか思うように外に出かけられない今、どんな風に1日を過ごしていますか? 映画を観ていますか?
何を食べ、何を思い、どんな映画を観たのか。
誰かの“映画を観た一日”を覗いてみたら、どんな風景が見えるでしょう?
日常の中に溶け込む、映画のある風景を映し出す連載「映画を観た日のアレコレ」。
35回目は、サヘル・ローズさんの映画日記です。
日記の持ち主
俳優
サヘル・ローズ
Sahel Rosa
1985年イラン生まれ。8歳で来日。日本語を小学校の校長先生から学ぶ。
主演映画『冷たい床』では、ミラノ国際映画祭で最優秀主演女優賞を受賞。
芸能活動以外にも、国際人権団体NGOの「すべての子どもに家庭(かてい)を」の活動で親善大使を務めている。
最近では、様々な国へ行き、子供たちへの支援や、青空教室などをおこなっている。
現在NHKアラビア語講座出演中、また今春出演映画『女たち』公開予定。

2021年1月21日 

朝のルーティンを話すのは案外初めてです。

おはようございます。っと目を覚ましてから、お日様を全身で浴び、1日が光包まれることをまずはイメージトレーニングします。
それから白湯を一杯飲んで、お顔のケア。そうするとキッチンでミキサーが踊り出す音が聞こえてきます……数分後には“季節のスムージー”が母の満面の笑みと共に部屋へ届くのです。
頭がキーンとしながらも美味しくいただきます。ちなみに母が一番得意なスムージーは、りんごとバナナと、ブロッコリーと蜂蜜入りのスムージーです。 なぜか真似をしても同じ味にはならない、これぞ「母の味」。それから私はヨーグルトとバナナと蜂蜜入りのブラックコーヒー、母はビール工房で作られた“ハート”というパンにバターと自家製のブラックベリージャム、そしてブラックコーヒーで朝ごはんを2人でいただきます。
そう、小さい頃から向かい側の席は「母」がいる。最近はちょっと切なさも感じることがあって。それは母がどんどん小さくなっているように感じるからです。
朝ごはん一つにしてもかけがえの無い愛しい時間。なんとなく過ごさないようにしなくちゃ。

さて、本題に戻ります。朝ごはんの後はトイレ掃除とゴミ出し、基本的には私の担当。それから晩ご飯のお野菜を洗い、支度をして私は現場へ。
あっ、また母の話をしていいですか? 我が母は可愛いのです。いつもエレベーターまで見送ってくれます。きっと母の中では永遠に幼いサヘルちゃんなんだと感じています。確かに、私にとっても永遠に彼女は「母」です。とっても苦労して育ててくれた。いつも私には母がいて、母には私しかいなかった。自分の人生に欠かせないテーマは「母親」だと思います。それが影響しているのか、映画も母親が題材のものを良く観てしまいます。映画のタイトルに「母」が入っていれば、観ない理由がありません。
ここまでお話しすると、今日ご紹介する映画がどんな作品か、もう、お分かりですよね? 仕事を終えて、帰った私。母はいつも逆算して帰るタイミングでご飯を用意してくれます。この日の献立は小豆とツナのターメリック煮込みと、サラダとイカのバター焼き。テレビの前に小さな白い折り畳みテーブルを置き、ご飯を並べて「いただきます」。

そしてずっと観たかったイランの動画配信サイトから『母とは』(原題:Madari)という映画を選んで観ました。イラン映画はハリウッド映画でも、イタリア映画でも、ドイツ映画でも、フランス映画でも、インド映画でもない、本当に“イラン映画”という独自の魅力で溢れています。
まず、音楽は基本的にはOPとEND以外は滅多に使わない。自然光を大切にするので、岩井俊二監督の作品がとっても近い技法に感じます。基本的にセリフは多くないです。目線や息遣いで伝えることが多いのです。ザラザラしたリアルな皮膚感と吐息もセリフになる。この『母とは』という映画もいい意味で冷たく、ひんやりした感覚。
イラン映画は絵的センスが素晴らしいと私は思います。特別なカットがある訳ではないのですが、役者の表現力の高さは世界レベルを超えています。イランと世界の政治的関係がもっと良好になれば、イラン映画は産業として、より飛躍できる素晴らしい可能性を持っています。そういう人材の宝庫です。今回は、まさに役者の表現力が問われる「イランの夫婦間や男女のリアルな会話」が題材でした。
主人公は結婚を約束している彼がいますが、彼の両親は2人の結婚に反対でした。すると突如、彼から連絡が途絶えてしまいます。彼を待ち続けている彼女に「親を切り離すことはできない。君とは結婚しない」という伝言が彼女に届くのです。アザーン(※)が鳴り響く中で、主人公の彼女が屋上で泣き崩れるシーンは圧巻でした。イランでは親が認めてない相手とは基本的に結婚は難しいのです。そして、男女が会話で愛の言葉を紡いでも、決して男女が触れることは許されないのです。触れないギリギリで伝える愛が、本当にドキドキします。また主人公の姉は離婚したいのに、できない状況におかれていました。夫がなかなか許さないこと、嫉妬や独占力。姉の一人娘は本当にいつも孤独で、1人ぼっち。離婚が成立してまもなく、姉は他界します。残された娘にとって『母とは』?

このなんとも云えない‥‥「うん? ここで終わるんかーい」な展開もイラン映画では定番で私は好きです。結末を見ている方に委ねていく。だからこそ、飽きさせない魅力と言いますか、魅惑があるのです。『別離』という映画も、まさにリアルなイランで起きている介護をテーマにした作品。そこから家族、夫婦、貧しさなど、イラン社会が抱えるあらゆる問題定義を見事に表現しています。世界的にも高く評価されています。日本でも見られる素晴らしい作品の一つですのでお薦めです。イラン映画とは“未来”ではなく“現在”を映し出す、人々の心の代弁者だと感じます。

あっ! すっごく真面目に書いてしまった。母ともこういう会話を映画を観終わってから良くします。私にとっての『母とは』、永遠の人生の先生であり、心の哲学者。それだけ素敵な母親です。
今日も、美味しいご飯と、素晴らしい映画に感謝して、おやすみなさい。

※アザーン…イスラム教の礼拝(サラート)への呼びかけ

2021年1月21日 サヘル・ローズの映画日記
BACK NUMBER
FEATURED FILM
監督 アスガー・ファルハディ
出演 レイラ・ハタミ, ペイマン・モアディ, シャハブ・ホセイニ
©2009 Asghar Farhadi
テヘランで暮らす妻シミンは、11歳になる娘テルメーの将来のことを考えて、夫ナデルとともにイランを出る準備をしていた。 しかしナデルは、アルツハイマー病を抱えることとなった父を置き去りにはできないと国を出ることに反対。夫婦の意見は平行線をたどり、シミンが裁判所に離婚申請をするが、協議は物別れに終わる…。
PROFILE
俳優
サヘル・ローズ
Sahel Rosa
1985年イラン生まれ。8歳で来日。日本語を小学校の校長先生から学ぶ。
主演映画『冷たい床』では、ミラノ国際映画祭で最優秀主演女優賞を受賞。
芸能活動以外にも、国際人権団体NGOの「すべての子どもに家庭(かてい)を」の活動で親善大使を務めている。
最近では、様々な国へ行き、子供たちへの支援や、青空教室などをおこなっている。
現在NHKアラビア語講座出演中、また今春出演映画『女たち』公開予定。
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