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誰かの“映画を観た一日”を覗いてみたら、どんな風景が見えるでしょう?
日常の中に溶け込む、映画のある風景を映し出す連載「映画を観た日のアレコレ」。
2020年5月21日
3月の最後の方にバンドのレコーディングがあってから、家族以外誰にも会ってない。
最初の頃は世界のニュースに一喜一憂したり、鬱々としたりもしていたけど、最近では意外なことにだんだんと心の中は凪、というか奇妙な無風状態に入ってきたような気がする。
毎日の天気が気になったり、今まであまりちゃんと聴いたことのなかった過去の名作アルバムもじっくりと聴いてみたりすることができた。
細かいことが気になったり、じっくり考えてみたり。これが「自分を見つめ直す」ということなのでしょうか。いわゆる、丁寧な暮らし? デトックス? 私、そういうの鼻で笑うタイプだったんですけど、これなのか? なんか恥ずかしい。
自粛期間に入ってからは、だんだんと1日のルーティーンみたいなものが形成されてきた。
朝起きて、午前中は曲作り。久しぶりに何に追われることもなく、じっくりと実験的なことをやってみたりしている。別に形にならなくたっていい、時間はたっぷりあることだし。曲作りにおいても丁寧さを心がけよう。前にやったことがあるような曲調やコード進行でも、もう1回キチンとやり直して作ってみよう。細かいところに凝ったりとか。1個1個は小さいことの積み重ねでも、きっと完成した時の説得力は変わってくる。時間も努力も必要だけど、今じゃなきゃ、これ絶対できないわ。
あれ? やっぱりこれ「自分を見つめ直してる」のかもしれない…。
昼に散歩に出かけて、たまに買い物にも出かける。何人かの友達に連絡をとったり、完成した曲を送りつけてみたり。それで映画を観たり音楽を聴いたりしてると、いつの間にか1日が終わってる。何だかずっと昔から、こんな生活をしていたような気もしてきた。
ただこういう状況になって一番辛いことはやっぱり、ライブができないことだ。
もちろんライブは自分の生業であるわけだから、現実的に仕事の一部がなくなってしまって辛いことではあるけれど、それ以上に自分の存在意義の一部が欠けてしまったような気さえしてくる。あの非日常的な空間、エネルギーの交換、そこで出会う人たち。
今ではすごく美しい思い出に思える。丁寧さなんてクソ食らえ、思いっきりでかい音を鳴らしたい。ミスしてもいいから、その場のテンションに任せたい。
あれが戻ってくるのはいつになるのだろうか。
5月21日。今日も朝から曲作りをしていたら、知り合いのO氏から一通のLINE。
「『ジェーン・ドウの解剖』って映画知ってますかー?? もしお暇なら観てみてくださいー」とのこと。O氏はSANABAGUN.というクールなバンドのマネージャーなのだが、そのバンドと対バンした時の打ち上げで悪趣味本の話で大変盛り上がり、それ以来グッとくる映画や本などがあったら教え合う仲なのである。外国の猟奇殺人の本とか、ホラーとか、そのテのものの詳しさにおいて、右に出るものはいない。
そんな彼のオススメする映画なら、この凹凸のない日々に劇的な刺激をもたらしてくれるかもしれない。
そう思い、夕食を食べたあと、おもむろに観始めた。
舞台は遺体安置所。検死官2人が、一家三人が惨殺された家屋の地下から全裸で発見された。身元不明の美女“ジェーン・ドウ”の遺体の検死をすると、あり得ない現象が次々と発生し…。
というお話。あ~これ、確かに面白いわ。話としては結構普通だし、ホラーものでありがちな、「お前、何でそんなことしちゃう?」とか「あ、こいつ多分死ぬな」みたいな王道な要素もありつつ、拘りを持った美術と演技のおかげで「なんかこんなことありそう」みたいなリアリティを獲得することに成功してる。ホラー映画なんて今まで死ぬほど作られてるから、面白い物を作るハードルも相当上がってるはずなのに、ストレートにいいものを作るっていうところで、それを超えていってるんだなあ。ふむふむ。
いや、これ全部に同じことが言えるわ。音楽でも、もうやり尽くされたと思われたことでも本当にいいものを丁寧に作れば絶対いいものができるし、認めてもらえる。
細かいことに拘ろう。部屋も片付けて、お花なんかも飾ろうかしら。
明日もめげずに、丁寧な生活していこう…。グロいホラー映画を観てそう考えてたのは、多分世界で私一人だったろうと思います。

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