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映画を観た日のアレコレ No.3

明和電機・社長
土佐信道の映画日記
2020年5月9日

映画を観た日のアレコレ
なかなか思うように外に出かけられない今、どんな風に1日を過ごしていますか? 映画を観ていますか?
何を食べ、何を思い、どんな映画を観たのか。
誰かの”映画を観た一日”を覗いてみたら、どんな風景が見えるでしょう? 
日常の中に溶け込む、映画のある風景を映し出す連載「映画を観た日のアレコレ」。
3回目は、アートユニット 明和電機社長の土佐信道さんの映画日記です。
日記の持ち主
芸術ユニット
明和電機
Maywadenki
土佐信道プロデュースによる芸術ユニット。青い作業服を着用し作品を「製品」、ライブを「製品デモンストレーション」と呼ぶなど、日本の高度経済成長を支えた中小企業のスタイルで、様々なナンセンスマシーンを開発しライブや展覧会など、国内のみならず広く海外でも発表。音符の形の電子楽器「オタマトーン」などの商品開発も行う。2016年1月には中国上海の美術館McaMで、初の大規模展覧会を成功させた。2018年にはデビュー25周年を迎え、大分、長崎での個展を開催した。2019年3月には秋葉原「東京ラジオデパート」にて明和電機初の公式ショップ「明和電機秋葉原店」をオープンさせた。

2020年5月9日

「金曜の夜は映画館に行って、最終上映の映画を見る」。ここ数年、当たり前だった夜更かしが新型コロナウイルスのためにできなくなった。さてどうしよう。

休日の土曜日、明和電機の工場(アトリエ)に向かう。目的は工場に置いてあるプロジェクター。仕事柄トークショーなどのイベントをすることが多く、プロジェクターを持っていた。これを家に持ち込んで白い壁に投影すれば、なんちゃって映画館になるだろう。そういう魂胆。

仕事を片付けての夕方、トートバッグにプロジェクター、外付けスピーカー、映像ケーブルなどを放り込んで、家に向けて自転車をこぐ。街は正月のように静かで人影が少なく、遠くを走る車の音がよく聞こえる。

家について、プロジェクターをダイニングテーブルの上に置き、配線をつないで準備完了。観る映画はポン・ジュノ作品と決めていた。

『パラサイト』を映画館で観て面白かったので、コロナ自粛中に関連作を観てみようと思っていた。『母なる証明』は破調な展開で面白かった。次は冒険をして未来SFモノの『スノーピアサー』を観たが、これが中途半端な設定でハズレ。基本に帰ってシリアスモノの『殺人の追憶』を観たらこれが大アタリ。

今のところポン・ジュノの映画は、三勝一敗。三勝してるならば冒険してもよかろうと、次はまたまたSFモノの『グエムル-漢江の怪物-』を観ることにした。YouTubeの予告編で怪獣の登場シーンを観たことがあり、興味があった。

白い壁に映像を投光すると、自己発光のパソコンの画面で見るのとはちがい、映画館にいる気分になった。しかし、決定的に何かが足りない。

ポップコーンだ。

僕は映画を観る時、必ずポップコーンとビールを買う。アメリカンスタイルである。たいがいポップコーンを食べ過ぎて、後で気持ち悪くなるのだが、時間がたつとケロリと忘れて、また買ってしまう。中毒性のある成分でも入ってるのだろうか。トウモロコシを主食としていたマヤ文明に生贄などのエキセントリックな儀式が多かったのは、とうもろこしに含まれる麻薬成分のせいだからという怪しい噂を聞いたことがあるが、あながち否定できない。

この自粛中の世の中、焼き立てのポップコーンなんて売ってない。無ければ作るしかない。 スーパーで買ってきた乾燥とうもろこしを、油をひいたフライパンにカラカラと振りまいて、中火で温める。はじけて大惨事にならないよう耐火ガラスの蓋をしておくと、香ばしい匂いとともに、白い花がポンポンと咲き始めた。

火を止めて、味付けをどうしようかと考える。砂糖を焦がしてキャラメルを作るのもいいが、ふと冷蔵庫の中に、昨年、アラブ首長国連合のアブダビに、明和電機のライブコンサートで行った時に買った、デーツのキャラメルクリームがあるのを思い出した。パンに塗って食べてもおいしいので、ポップコーンにもあうはず。

これでもかという量を大さじのスプーンですくい、ポップコーンの花の真ん中に落とす。余熱でじわりと溶けてくキャラメルクリーム。フライパンに蓋をして、高速でゆする。このゆすりは、妥協せず、全エネルギーを投入して行わなければいけない。ゆすればゆするほど、キャラメルクリームがポップコーンの複雑な形状の奥まで染み込む。

想像どおり、キャラメルクリームはポップコーンにぴったりだった。右手にビール、左手にポップコーンと言う完璧なフォーメーションで、『グエムル』の上映を始めた。

映画の中の怪獣は、二つの「悪」の要素からできていた。一つは、アメリカが廃棄した化学薬品によって突然変異をした魚という「害獣」の部分。そしてもう一つは、その怪獣中に潜伏している「悪性ウイルス」である。

「害獣」は、怪獣映画らしく人を襲い、踏みつけ、生きたまま食べてしまう。主人公の家族たちはこの「害獣」が奪っていった娘を必死に助けようとする。映画は視覚芸術なので、怪獣の暴れっぷりをしっかりと観客は目撃する。しかし、もう一方の「悪性ウイルス」は、ミクロな存在なので、観客には直接目撃できない。ウイルスの方が一匹の「害獣」よりも社会にとって脅威なのにだ。ポップコーンを食べながら、この「悪性ウイルス」は新型コロナウイルスだなあと思った。

映画館で映画を観終わったならば、会場に照明が明々と灯り、ざわつく席を立つ人達に囲まれるので、いやがおうでも現実へと連れ戻される。しかし自宅でプロジェクターで観る映画では、エンドロールが上がっても強制的に現実に連れ戻されることはない。

いつのまにか空になったビール瓶と、ポップコーンが入っていた器にプロジェクターの青い光が当たっていた。その光景は、いまだ出口の見えない新型コロナウイルスという怪獣映画の続きを観ているようだった。

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PROFILE
芸術ユニット
明和電機
Maywadenki
土佐信道プロデュースによる芸術ユニット。青い作業服を着用し作品を「製品」、ライブを「製品デモンストレーション」と呼ぶなど、日本の高度経済成長を支えた中小企業のスタイルで、様々なナンセンスマシーンを開発しライブや展覧会など、国内のみならず広く海外でも発表。音符の形の電子楽器「オタマトーン」などの商品開発も行う。2016年1月には中国上海の美術館McaMで、初の大規模展覧会を成功させた。2018年にはデビュー25周年を迎え、大分、長崎での個展を開催した。2019年3月には秋葉原「東京ラジオデパート」にて明和電機初の公式ショップ「明和電機秋葉原店」をオープンさせた。
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