映画を観た日のアレコレ　No.84

2023年8月15日

8月、第三週の火曜日。
台風7号が世間を騒がせている。私はお休みをもらっていた。
夫が住む愛知県に行くつもりだったけど、新幹線のダイヤが乱れに乱れ、向こうに行くのは厳しいと判断した。コンパクトな部屋に対して大きめの窓から差し込む陽の光は眩しくて、澄んだ青空が広がっている。東京はこんなにも晴れているのに・・・。少し離れた場所では雨がこれでもかというぐらい降っているらしい。物理的な距離を感じ少しだけ気持ちが沈んだ。

今日みたいにふいに寂しさを感じた時、仕事で失敗して落ち込んでいる時、意味もなく飲み明かしたい時、いつも連絡してしまう友達がいる。“みか”という、明るくて元気な少しめんどくさい女の子。底抜けの明るさと人に寄り添う優しさを持つみかといると無条件に悩みが吹き飛ぶ。少し前までならこんな日はきっと迷わずみかに連絡しただろう。ただ、その彼女も今は物理的に離れた距離に住んでいる。「お母さんとの時間を大切にしたい」と、半年ほど前から地元大阪に帰ってしまった。

休日を持て余している私は、なんとか今日を充実させようとお昼ごはんにお取り寄せしたちょっと豪華な海鮮のキムチをお米に乗せて食べた。

なにか映画でも観ようかなとリモコンを手に取った時、みかが教えてくれたひとつの映画を思い出した。一年ほど前だっただろうか・・・理由はちっとも覚えていないけど、その日もなんだか冴えない気分で“今ひま？”ってラインしたら1分経たずに“ひま”って返事が来て、そのまま家に行ったんだっけ。「なんか映画でも観る〜？」と言いながら、Netflixをザッピングして勧めてくれたのは『最強のふたり』。
好きな映画を聞かれると『淵に立つ』と『凪待ち』と答える根が暗めで邦画を好む私はその作品を知らなかった。

事故で全身が動かなくなってしまった富豪とスラム街出身の黒人青年。交わるはずのなかった2人の男性がひょんなことで出会い、次第に心が通じ合っていき、最強のパートナーになるという実話を元にしたお話。主人公の青年ドリスが歯を剥き出しにして無邪気に笑うと、こちらまで勝手に口角が上がり不思議と楽しい気分になってくる。中でも、2人がオペラを観に行くシーンのドリスのバカ笑いが最高だ。観終わる頃には驚くほど心が軽くなっていて、その作品が大好きになった。そんなことを思い出しながら、改めて観る『最強のふたり』はやっぱりとても温かかった。

その夜、みかに電話をかけた。

「久しぶりー。どしたん？」
直接聞くよりも少しだけ優しくて、普段通りテンションの高い声がする。

「今日ふと思い出して『最強のふたり』を観たんだよ。前に私が元気ない時に観せてくれたんだけど、なんであの映画にしようと思ったの？」

「それ言われるまで一緒に観たことも忘れてたわ（笑）なんやったけっなぁ。育ちの差がある2人がオペラ行って、片方はマナーとか知らないから木の格好して歌ってる人を見てめちゃくちゃ爆笑するシーンが最高！って話したら、みぃちゃんも観たいってなったんだっけなぁ…。」

なんだ。私が好きだと思ってたあのシーンは、みかの好きなシーンだったんだ。

早く会いたいなぁ。

最強のふたり

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