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映画を観た日のアレコレ No.82

俳優
内田慈の映画日記
2023年4月24日

映画を観た日のアレコレ
なかなか思うように外に出かけられなかった時を経て、今どんな風に1日を過ごしていますか? 映画を観ていますか?
何を食べ、何を思い、どんな映画を観たのか。 誰かの“映画を観た一日”を覗いてみたら、どんな風景が見えるでしょう? 日常の中に溶け込む、映画のある風景を映し出す連載「映画を観た日のアレコレ」。
82回目は、俳優 内田ちかさんの映画日記です。
日記の持ち主
俳優
内田慈
Chika Uchida
1983年生まれ。神奈川県出身。日本大学芸術学部文系学科中退後、演劇活動を開始。新進気鋭の作家・演出家の作品にいち早く出演しキャリアを積む。 舞台では、前川知大、前田司郎、岩井秀人、三浦大輔、 ペヤンヌマキほか同世代とのクリエイションをはじめ、二兎社、こまつ座など老舗の劇団へも出演、近年では月刊「根本宗子」、木ノ下歌舞伎など次世代を担うクリエイターの作品へも出演している。映画では、08 年に橋口亮輔監督『ぐるりのこと。』でスクリーンデビュー後、多数の映画に出演。 ドラマや、声優・ナ レーターとしても活躍の場を広げている。どんな時も「他者に寄り添うこと」を 表現の軸に置いている。近年の主な出演作に、【映画】『レディ・トゥ・レディ』 (W 主演)、『決戦は日曜日』【舞台】『糸井版 摂州合邦辻』『紙屋町さくらホテル』、『海王星』【TV ドラマ】『silent』(CX)『しょうもない僕らの恋愛論』(ytv)『夫婦が壊れるとき』(NTV)【声】みいつけた!(NHK)など。

2023年4月24日

朝。
起きてからこっち、マグカップ片手にずーっとぼーっとしている。

今日は何も予定がない。ゆったりとした時間をコーヒーと共に全身に染み渡らせている。ちょっと前に買ったお気に入りのペーパーレスドリッパーがピントをぼやかしてふんわり視界に入っている。

それにしても先日観た舞台、こまつ座『きらめく星座』(作:井上ひさし/演出:栗山民也)がとても良かった。
舞台は昭和15〜16年。刻一刻と暗い時代に突入していくとき。そんな苦境の最中を生きる登場人物たちが、底抜けに明るく逞しくお茶目なのだ。美味しいものと聞けば色めき立ち、テヘペロな愛嬌たっぷりに、青空に未来への希望をかけて、歌い踊る。
ラストは、迫り来る時代の闇が描かれる。今を生きる私たちは、あの戦争の結末を知ってる。
毎日を懸命に生きた人たちの愛おしい日常が胸に迫る。

日常。
戦時下におかれた方々の過ごす日常への意識は、どんな感じなんだろう。
現在、日本で生きている私は、この日常がどれだけ尊く奇跡であるか? 毎回そこに立ち帰るのはなかなかに難しい。
ドラマチックな瞬間もあるけれど、深く意味がないように感じる瞬間の方が全然多いし。
生きることはおそらく辛いことの方が多いのではないかと考えているけど、忘れて能天気な瞬間は結構あるし、「無」みたいな時間もあって、そんな中で色んな感情の波に飲み込まれそうになったり乗り越えたりを繰り返してる。

でも、度合いは違えど、“日常”ってそういうものなのかもなと思う。
そんな瞬間の集合体が人生で。
うん。
(え、なんか、ハズ)

だから、俳優業は楽しくて難しい。
自分じゃない誰かの何気ない“日常”を生きる仕事だから。
うんうん。
(え、なんか、アツ)

コーヒーをまた一口。
(あ、ヌル)

はっ。今日はあれが観たい。

ケン・ローチさま。
サブスクで検索すると、おぉ、いらっしゃる。
『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016)にしようか、『家族を想うとき』(2019)にしようか。
あまりに懸命に切実に日常を生きる登場人物たちの姿に、どちらも観た後、映画館で立ち上がれないほど泣いた。
前者では、生活に困窮したシングルマザーの女性が食べ物の配布所でトマト缶を手にした瞬間、手づかみで食べてしまうシーンが忘れられない。
後者ではラスト、それでも仕事に行く選択をした父に、社会の歪みに怒りを覚えるとともに、家族を想う気持ちが伝わってきて、苦しかった。

うん、今日は色んな“日常”を観よう。

あーとーは、どうしようかなー。

わ…
う、わ。うわー!
『君も出世ができる』(1964)がBlu-rayに自動録画されているではないか!
芝居を始めて間もない頃、下北沢の現711が映画館だった頃に特集上映で観て、フランキー堺と雪村いづみに恋に落ちたのだ。
その後、もう一度観たくて色々探したけどディスク化されてなかったはず、ましてやテレビ放送されてたの!? すごい!
めちゃくちゃ楽しいミュージカル映画だ。
はっきり言って、さっき掲げたばかりの今日のコンセプトからはズレている。スーパーエンタメで“日常”云々とかそういう作品ではなかったばすだ。
ただ、タイトルの通り、昭和のサラリーマンが出世するためにアレコレとコミカルに日々奮闘する話だ。当てはまらないとも言えなくもない! じゃあコレで!(観たいだけ)

で。
観始めてから途中までしか録画されていないことがわかり、ひとしきり落胆したあとAmazonでDVDを見つけてポチり、いま、おあずけをくらっている。

という、私の今日という日常の1ページ。

内田慈の映画日記
BACK NUMBER
INFORMATION
『あの子の夢を水に流して』
出演:内田慈 玉置玲央 山崎皓司 加藤笑平 中原丈雄
脚本・監督:遠山昇司

2023年5月20日(土)ユーロスペースほか全国順次公開
2022年|日本|カラー|1.85:1|DCP|ステレオ|70分
©「あの子の夢を水に流して」製作委員会
生後間もない息子を亡くした瑞波は、失意のなか、10年ぶりに故郷である熊本・八代に帰省す る。瑞波は幼なじみの恵介と良太に久しぶりに再会し、3人で豪雨災害による傷跡が残る球磨 川を巡り始める。川を前にして語られる、それぞれが「あのとき」見たもの。3人はそこで、 不思議な現象を目の当たりにする。
PROFILE
俳優
内田慈
Chika Uchida
1983年生まれ。神奈川県出身。日本大学芸術学部文系学科中退後、演劇活動を開始。新進気鋭の作家・演出家の作品にいち早く出演しキャリアを積む。 舞台では、前川知大、前田司郎、岩井秀人、三浦大輔、 ペヤンヌマキほか同世代とのクリエイションをはじめ、二兎社、こまつ座など老舗の劇団へも出演、近年では月刊「根本宗子」、木ノ下歌舞伎など次世代を担うクリエイターの作品へも出演している。映画では、08 年に橋口亮輔監督『ぐるりのこと。』でスクリーンデビュー後、多数の映画に出演。 ドラマや、声優・ナ レーターとしても活躍の場を広げている。どんな時も「他者に寄り添うこと」を 表現の軸に置いている。近年の主な出演作に、【映画】『レディ・トゥ・レディ』 (W 主演)、『決戦は日曜日』【舞台】『糸井版 摂州合邦辻』『紙屋町さくらホテル』、『海王星』【TV ドラマ】『silent』(CX)『しょうもない僕らの恋愛論』(ytv)『夫婦が壊れるとき』(NTV)【声】みいつけた!(NHK)など。
FEATURED FILM
監督:須川栄三
出演:フランキー堺 高島忠夫 雪村いづみ 中尾ミエ
歌おう、踊ろう、出世をしよう! 早い者勝ち、コノ手で行こう!
観光会社を舞台に、現実型のサラリーマン(フランキー堺)と夢想型のサラリーマン(高島忠夫)、対照的なふたりが、アノ手コノ手の出世作戦を楽しいメロディーと素敵なダンスで繰り広げる!
豪華実力派キャストでブロードウェイ・ミュージカルの楽しさを詰め込んだ、日本初の本格ミュージカル・コメディ!
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