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映画を観た日のアレコレ No.95

俳優
菊池日菜子の映画日記
2025年1月1日

映画を観た日のアレコレ
何を食べ、何を思い、どんな映画を観たのか。 誰かの“映画を観た一日”を覗いてみたら、どんな風景が見えるでしょう?
日常の中に溶け込む、映画のある風景を映し出す連載「映画を観た日のアレコレ」。
95回目は、俳優 菊池日菜子さんの映画日記です。
日記の持ち主
俳優
菊池日菜子
Hinako Kikuchi
2002年2月3日生まれ。福岡県出身。
映画「月の満ち欠け」(2022)で小山内瑠璃 役を演じ、第46回 日本アカデミー賞 新人賞を受賞。 
主な出演作は映画『私はいったい、何と闘っているのか』『か「」く「」し「」ご「」と「 』、舞台『醉いどれ天使』『演劇「ライチ☆光クラブ」2025』、ドラマ『RoOT / ルート』(TX)、『リラの花咲くけものみち』(NHK総合)など。
現在、読売テレビ・日本テレビ系 日曜ドラマ「DOCTOR PRICE」に出演中。

2025年1月1日水曜日

人生で初めてただ1人で元旦を迎える。そう悪くはないみたい。良くもないけど。
1か月前から慣れない舞台稽古に絶え間なく頭と身体を動かしていたので、久しぶりの確約された2連休に意気込んでいた。帰省こそ叶わないけれど、年末年始を意識しなければ、これはただの休暇であって、全くの日常なのだと言い聞かせ、危うく東京ごと恨みそうだった自分の背中をさすってやる。
昨日は大晦日の浮かれた気配をぷんぷん漂わせた新宿を、積もりに積もった僻み根性で掻っ切りながら歩いた。なんとか辿り着いた新宿バルト9で『レ・ミゼラブル』をDolby Atmos上映で観た。こりゃあたまんないね。映画よ、ありがとう。音楽よ、ありがとう。こんなエンタメを前にしては平伏す一択でございます。新宿をあとにする頃には恨みや僻みはカラリと晴れて、ちょっと良いワインを買って帰った。

お布団に入った記憶は無いものの、二日酔いを感じない幸運な目覚めに、お正月のめでたい魔力を信じる。「年末年始なんてどこかの誰かが決めただけで絶対的じゃないし」と口を尖らせていた昨日の私はどこへやら、起床早々初のおせち作りに奮闘する。今年は私の私による私だけのためのおせちだ。レシピサイトと睨み合いながらようやく出来上がった、甘いものだらけのワンプレートおせちに舞い上がる。のも束の間、プレートに乗りきらなかった不格好な伊達巻やたたきごぼうをめでたさの薄れた明日にも食べることを想像して気が遠くなった。おせちは1人のために作るものじゃないなと悟り、のそのそと外出の準備にかかる。

今日も映画を観に行きます。

『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』

Xを更新しても更新してもタイムラインに出現し続けるこの映画。いざ、ネタバレを避け続ける日々に終止符を!

いつもどおり何でもない服を着ながら、(そういえば実家にいた頃の今日は綺麗めな服を着させられていたな)と思い出し、自分が今ひとりぼっちなことに思わぬ角度から一撃を食らう。
慌てて自分もピントスコープを『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』に合わせ直し、昨晩ワインに飲まれながら観た紅白を思い出して、乃木坂46の「きっかけ」を再生する。
さぁ大嫌いな新宿へ。今日は私もあの場所を浮かれながら歩きたい。
電車に乗ってスマホを覗くと、家族ラインや幼馴染ラインが楽しげな写真たちで溢れていた。
一転。鬱鬱。
なんで、私はお正月だと言うのに東京メトロに乗っているんだろうか。なんで、好きじゃない新宿なんかに足を進めているんだろうか。こんなにもひとりぼっちで。
信じるものも信じたいものもぐちゃぐちゃになって、そのまま手摺りのない不親切な階段を降りた。私は手摺りなしで階段をくだるのが怖いのに。新宿はいつだって私に厳しい。
お正月の劇場は賑やかさの中に若干の厳かな空気を帯びていた。防衛的に鈍くした感覚のせいでいつもより薄暗いシネマカリテを新鮮に見る。なんだかんだで自分が一番お正月に踊らされていることに気が付くと、これまでの全部を楽しく思えた世界線がすぐ隣に在るような気がした。
帰りの電車は混んでいたけど、ダウンジャケットを着た人ばかりで、もふもふと優しかった。近所の行ったことのないバーは変わらず紫色にギラギラ光っていた。
今日は『マグノリアの花たち』を観て寝よう。
明日、残り物のおせちをお弁当箱に詰めて稽古場に持っていこう。誰の目にも付かない場所で食べて、1人でおめでたくなってやろう。

菊池日菜子の映画日記
BACK NUMBER
FEATURED FILM
1945年、長崎。看護学生の田中スミ、大野アツ子、岩永ミサヲの3人は、空襲による休校を機に帰郷し、家族や友人との平穏な時間を過ごしていた。しかし、8月9日午前11時2分、長崎市上空で原子爆弾がさく裂し、その日常は一瞬にして崩れ去る。街は廃墟と化し、彼女たちは未熟ながらも看護学生として負傷者の救護に奔走する。救える命よりも多くの命を葬らなければならないという非情な現実の中で、彼女たちは命の尊さ、そして生きる意味を問い続ける――
©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会
出演:菊池日菜子
小野花梨 川床明日香 
水崎綾女 渡辺大 田中偉登 呉城久美 坂ノ上茜 田畑志真 松尾百華 KAKAZU
加藤雅也 有森也実 萩原聖人 利重剛 / 池田秀一 山下フジヱ
南果歩 美輪明宏(語り)

原案:「閃光の影で―原爆被爆者救護 赤十字看護婦の手記―」(日本赤十字社長崎県支部)
監督:松本准平 脚本:松本准平 保木本佳子

主題歌:「クスノキ -閃光の影で-」(アミューズ/Polydor Records)
作詞・作曲:福山雅治   編曲:福山雅治 / 井上 鑑
歌唱:スミ(菊池日菜子) / アツ子(小野花梨) / ミサヲ(川床明日香)

制作プロダクション:SKY CASTLE FILM ふればり 
配給:アークエンタテインメント

8月1日(金)全国公開
PROFILE
俳優
菊池日菜子
Hinako Kikuchi
2002年2月3日生まれ。福岡県出身。
映画「月の満ち欠け」(2022)で小山内瑠璃 役を演じ、第46回 日本アカデミー賞 新人賞を受賞。 
主な出演作は映画『私はいったい、何と闘っているのか』『か「」く「」し「」ご「」と「 』、舞台『醉いどれ天使』『演劇「ライチ☆光クラブ」2025』、ドラマ『RoOT / ルート』(TX)、『リラの花咲くけものみち』(NHK総合)など。
現在、読売テレビ・日本テレビ系 日曜ドラマ「DOCTOR PRICE」に出演中。
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