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映画の言葉『アンネ・フランクと旅する日記』キティーが語るアンネの言葉

「不思議だわ。
これほど人間の邪悪な面を見てきても、今なお心の奥底で私は信じてる。人間の本質は“善”なのだと」

© ANNE FRANK FONDS BASEL, SWITZERLAND
映画の中の何気ない台詞が、
あなたにとっての特別な“言葉”となり、
世界を広げ、人生をちょっと豊かにしてくれるかもしれない。
そんな、映画の中の言葉を紹介します。

不思議だわ。
これほど人間の邪悪な面を見てきても、
今なお心の奥底で私は信じてる。
人間の本質は“善”なのだと

キティーが語るアンネの言葉

『アンネ・フランクと旅する日記』より

私は南欧に住んでいます。2日前には息子が通う学校の保護者たちでウクライナから逃げている人々への支援物資を出し合いました。指揮をとったのはロシアとウクライナ両方の血筋を持ち、ベラルーシ国籍を持つ保護者です。昨日会ったロシア人の保護者は「ロシアから家族を呼び寄せることにした」と言っていました。戦地からはかなり離れているとはいえ、日本にいたときとは比べ物にならない近さで今回の戦争を感じています。

『アンネ・フランクと旅する日記』は、ユダヤ系ドイツ人の少女アンネ・フランクが、ホロコーストから逃れるために隠れ家で暮らしながら書いた『アンネの日記』を原案としたアニメーション映画です。ただし、本作の主人公はアンネではありません。

今は博物館になっているアンネの隠れ家。そこに展示されている日記の原本から飛び出したのは、『アンネの日記』に登場する「アンネの想像上の親友キティー」でした。アンネの運命も自分がどこにいるのかもわからない彼女は、アンネとの過去の日々や現在の社会の様子を辿っていきます。そして、アンネの運命に心を痛めるとともに、今なお未来を奪われている人々が大勢いることを知るのでした。

魔法のように生き生きとしたアニメーションで表現される過去パートのアンネは、まるで本当に生きているかのように魅力的です。賢くて明るいアンネは隠れ家に移り住んだ後も、弱音を吐きながらも「お前の空想や美しい想像力は どんな薬より効くはずだ」という父の言葉を実践するように、自身を奮い立たせながら人生を輝かせようとします。

「不思議だわ。これほど人間の邪悪な面を見てきても、今なお心の奥底で私は信じてる。人間の本質は“善”なのだと」

これは、現代パートでキティーが思わず立ち上がって叫んだアンネの言葉です。恐怖に押し殺されそうになりながらも、類まれなる想像力と精神力で人間の本質を善だと信じ抜いたアンネ。

現在、混沌を極める情勢の中、他の地域での戦争と今回の戦争に対する西欧諸国の反応の落差など、戦争行為そのものに付随して色々な議論が巻き起こっています。インターネット上には過激な発言や残酷な動画が溢れ、人類の醜悪さが次から次へと溢れ出てきているようにも感じます。

しかし、大量の支援物資を半日で集め、戦地から逃げてきた見知らぬ家族を自宅に招いている人々が私の身近にいるのも確かなのです。ロシア人の友人たちは自国の行為に心を痛めており、彼らを責める人は少なくとも私の周りにはいません。いま私の目が直接見ている世界はとても狭いですが、そこには確かに人間の“善”があります。

いざ自分が渦中に置かれたとき、私もアンネのように想像の翼を広げ、人間が持つ“善”を信じ続けることができるのでしょうか? わかりません。でも、現状に深く心を痛めて行動している友人たちを見ていると、そうでありたいと強く願います。子ども時代に『アンネの日記』を読んだ人も読んだことがない人も、今このときだからこそ、キティーが伝えてくれるアンネの想いに改めて触れてみませんか?

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INFORMATION
『アンネ・フランクと旅する日記』
監督・脚本:アリ・フォルマン
声の出演:ルビー・ストークス エミリー・キャリー
原案:「アンネの日記」(ユネスコ「世界記憶遺産」2009年登録)
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
原題:Where Is Anne Frank
日本語字幕:松浦美奈

2022年3月11日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開!
© ANNE FRANK FONDS BASEL, SWITZERLAND
「不思議だわ。これほど人間の邪悪な面を見てきても、
今なお心の奥底で私は信じてる。人間の本質は“善”なのだと―――」
現代のオランダ・アムステルダム。激しい嵐の夜、博物館に保管されているオリジナル版「アンネの日記」に異変が起きた。突然、文字がクルクルと動き始めて、キティーが姿を現したのだ!時空を飛び越えたことに気づかないキティーだったが、日記を開くと過去へさかのぼってアンネと再会を果たし、日記から手を離すとそこには現代の風景が広がっていた。目の前から消えてしまったアンネを探して、キティーは街を疾走する……。
PROFILE
映画・演劇ライター
八巻綾
Aya Yamaki
映画・演劇ライター。テレビ局にてミュージカル『フル・モンティ』や展覧会『ティム・バートン展』など、舞台・展覧会を中心としたイベントプロデューサーとして勤務した後、退職して関西に移住。八巻綾またはumisodachiの名前で映画・演劇レビューを中心にライター活動を開始。WEBサイト『めがね新聞』にてコラム【めがねと映画と舞台と】を連載中。
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