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映画の言葉『麻希のいる世界』青野由希のセリフより

「だから私も残しておきたいんだよ 私が生きた証」

©SHIMAFILMS
映画の中の何気ない台詞が、
あなたにとっての特別な“言葉”となり、
世界を広げ、人生をちょっと豊かにしてくれるかもしれない。
そんな、映画の中の言葉を紹介します。

だから私も残しておきたいんだよ
私が生きた証

By 青野由希

『麻希のいる世界』より

色々な映画の感想を読んでいると、「伏線」「回収」「考察」といった言葉が流行っていると感じます。ほどよく張られた伏線を見事に回収すること、散りばめられたヒントを基に何か答えらしきものを導き出すこと。ミステリーや宝探しのように作品を紐解くのは楽しいですが、そういった方法では語れない作品も存在します。『麻希のいる世界』はまさにそんな“理屈じゃない”映画です。

持病を抱える高校2年生の由希(新谷ゆづみ)は、ある日海辺で見かけた一匹狼の少女・麻希(日髙麻鈴)に強く惹かれます。行動を共にするうちに麻希の歌の才能に気付いた由希は、バンドを作るべきだと主張。由希を慕い麻希を嫌う軽音楽部の祐介(窪塚愛流)も巻き込んで、麻希の音楽を世に知らしめようと頑張る由希でしたが……。

本作のキャラクターの感情や行動は制御不能で、予測できません。何においても明確な理由は示されず、巧妙に張られた伏線もない。ただ、そうだったから。ただ、そうしたかったから。“理屈じゃない”に満ちた89分に、私はただただ圧倒されました。

「だから私も残しておきたいんだよ 私が生きた証」

かつての入院仲間との会話の中で、由希はこう呟きます。「生きた証」とは? 歴史に名前を刻むことでしょうか? 誰かの記憶に残り続けることでしょうか? 正直なところ、私にも答えはわかりません。ただハッキリとわかるのは、由希たちがモラルや常識などは気にもせず、突き動かされるままに怒り、愛し、もがき、ベッタリとアクセルを踏み込んで生きているということだけです。

鋭く前を見つめて「永遠に飛んでいたい 着地なんてしたくない」と歌う麻希。生きた証を残したいと語る由希。彼女たちの中に常に吹き荒れるエネルギーと衝動。“理屈じゃない”彼女たちの世界に飛び込んでいく勇気はありますか?

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INFORMATION
『麻希のいる世界』
監督・脚本:塩田明彦
出演:新谷ゆづみ、日髙麻鈴、窪塚愛流、鎌田らい樹、八木優希、大橋律、松浦祐也、青山倫子、井浦新
劇中歌:「排水管」(作詞・作曲:向井秀徳)、「ざーざー雨」(作詞・作曲:向井秀徳)
製作・配給:シマフィルム株式会社
渋谷ユーロスペース、新宿武蔵野館にて公開中、ほか全国順次ロードショー
©SHIMAFILMS
重い持病を抱え、ただ“生きていること”だけを求められて生きてきた高校2年生の由希(新谷ゆづみ)は、ある日、海岸で麻希(日髙麻鈴)という同年代の少女と運命的に出会う。男がらみの悪い噂に包まれた麻希は周囲に疎まれ、嫌われていたが、世間のすべてを敵に回しても構わないというその勝気なふるまいは由希にとっての生きるよすがとなり、ふたりはいつしか行動を共にする。ふと口ずさんだ麻希の美しい歌声に、由希はその声で世界を見返すべくバンドの結成を試みる。
一方で由希を秘かに慕う軽音部の祐介(窪塚愛流)は、由希を麻希から引き離そうとやっきになるが、結局は彼女たちの音楽作りに荷担する。彼女たちの音楽は果たして世界に響かんとする。しかし由希、麻希、祐介、それぞれの関係、それぞれの想いが交錯し、惹かれて近づくほどに、その関係性は脆く崩れ去る予感を高まらせ──。
PROFILE
映画・演劇ライター
八巻綾
Aya Yamaki
映画・演劇ライター。テレビ局にてミュージカル『フル・モンティ』や展覧会『ティム・バートン展』など、舞台・展覧会を中心としたイベントプロデューサーとして勤務した後、退職して関西に移住。八巻綾またはumisodachiの名前で映画・演劇レビューを中心にライター活動を開始。WEBサイト『めがね新聞』にてコラム【めがねと映画と舞台と】を連載中。
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