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映画の言葉『トリとロキタ』ロキタのセリフより

「歌うとしたら あなたのため」

トリとロキタ
©LES FILMS DU FLEUVE – ARCHIPEL 35 – SAVAGE FILM – FRANCE 2 CINÉMA – VOO et Be tv – PROXIMUS – RTBF(Télévision belge) Photos ©Christine Plenus
映画の中の何気ない台詞が、
あなたにとっての特別な“言葉”となり、
世界を広げ、人生をちょっと豊かにしてくれるかもしれない。
そんな、映画の中の言葉を紹介します。

歌うとしたら あなたのため

By ロキタ

『トリとロキタ』より

アフリカから来たトリとロキタはベルギーで暮らしています。イタリアンレストランの客の前で歌うバイトの後に待っているのは、ドラッグの運び屋としての仕事。なかなかロキタのビザが下りないために、なんとか偽造ビザを手に入れようと危ない仕事に手を染めざるを得ないのです。

ティーンエイジャーのロキタと、まだ少年のトリ。あどけない彼らを取り巻く状況はあまりに過酷です。金銭的、精神的、肉体的に搾取する悪徳業者はもちろんですが、彼らを助ける立場の人たちも、無条件でロキタを救ってくれるわけではありません(ビザの発給には厳しい審査が必要)。表の人間にとっては何の後ろ盾もない難民の子ども、裏の人間にとっては弱みを握ってどうとでも動かせる奴隷……彼らは誰に対しても圧倒的に弱者なのです。

でも、トリとロキタは懸命に生きています。それは、トリにとってはロキタが、ロキタにとってはトリがいたからに他なりません。ロキタはレストランで軽やかにこう歌います。

「歌うとしたら あなたのため」

年長のロキタは、眠りにつく前に「歌って」とロキタにお願いするまだ幼いトリのために。年少のトリは、心も体も壊れそうになりながら様々な重圧に耐えて自分を守ってくれるロキタのために。2人は、互いに守り合い、互いの希望であり続けようとします。これ以上ないほどに辛い展開の中で、確かな光を放って浮かび上がってくるのは、トリとロキタの間に固く結ばれた絆です。

この世界には、過酷な環境下におかれた大勢のトリとロキタたちが確実に存在しています。彼らが大切な誰かとの絆を、安全な場所で育むことができるように努めることは大人たちの義務です。目を逸らさずに本作を観ることは、その第一歩となるに違いありません。

PINTSCOPEでは隔週で「映画の言葉」をお届けしています。
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INFORMATION
『トリとロキタ』
監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 
出演:パブロ・シルズ、ジョエリー・ムブンドゥ、アウバン・ウカイ、ティヒメン・フーファールツ、シャルロット・デ・ブライネ、ナデージュ・エドラオゴ、マルク・ジンガほか
配給:ビターズ・エンド

2023年3月31日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほか全国順次公開中
©LES FILMS DU FLEUVE - ARCHIPEL 35 - SAVAGE FILM - FRANCE 2 CINÉMA - VOO et Be tv – PROXIMUS - RTBF(Télévision belge) Photos ©Christine Plenus
地中海を渡りヨーロッパへやってきた人々が大勢ベルギーに暮らしている。トリとロキタも同様にベルギーのリエージュへ やってきた。トリはまだ子供だがしっかり者。十代後半のロキタは祖国にいる家族のため、ドラッグの運び屋をして金を稼いで いる。偽りの姉弟としてこの街で生きるふたりは、どんなときも一緒だ。年上のロキタは社会からトリを守り、トリはときに不安定 になるロキタを支える。偽造ビザを手に入れ、正規の仕事に就くために、ロキタはさらに危険な闇組織の仕事を始める……。 他に頼るもののないふたりの温かく強固な絆と、それを断ち切らんとする冷たい世界。彼らを追い詰めるのは麻薬や闇組織なのか、それとも……。
PROFILE
映画・演劇ライター
八巻綾
Aya Yamaki
映画・演劇ライター。テレビ局にてミュージカル『フル・モンティ』や展覧会『ティム・バートン展』など、舞台・展覧会を中心としたイベントプロデューサーとして勤務した後、退職して関西に移住。八巻綾またはumisodachiの名前で映画・演劇レビューを中心にライター活動を開始。WEBサイト『めがね新聞』にてコラム【めがねと映画と舞台と】を連載中。
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