PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば

映画の言葉『私が、生きる肌』ベラのセリフより

「私は呼吸する、呼吸している」

©El Deseo
映画の中の何気ない台詞が、
あなたにとっての特別な“言葉”となり、
世界を広げ、人生をちょっと豊かにしてくれるかもしれない。
そんな、映画の中の言葉を紹介します。

私は呼吸する、呼吸している

By ベラ

『私が、生きる肌』より

数年前、右頬にあった大きなシミを除去しました。科学の力で見た目を変えることは、今は珍しいことではなくなりつつあります。では、仮に自分の外見が完全に失われたとき、「私が私である」ことをどうやって確認すればいいのでしょうか?

ペドロ・アルモドバル監督『私が、生きる肌』の主人公は天才的な形成外科医ロベル(アントニオ・バンデラス)。完璧な人工皮膚の開発のため、ベラ(エレナ・アナヤ)という人物を監禁して実験台にしています。手術を重ねる度にロベルの亡き妻そっくりになっていくベラは、広い部屋にたった1人で過ごしていて、部屋の外に出ることはできません。その壁は、ベラが記した無数の文字で覆われています。

「私は呼吸する、呼吸している」

これは、ベラが壁に書いた言葉の一部です。人工皮膚によって身体を覆うものがすべて入れ替わっても、「私は私である」ことを確認し続けたベラ。ベラがテレビで見たヨガのインストラクターは「あなたには、“隠れ場所”があります。あなたの心の奥に、誰にも踏み込まれず、誰にも破壊されない場所が」と言いました。ベラはその“隠れ場所”を見つけ、決して見失わないように努力していたのだと思います。私の呼吸は、私が私として生きていることの絶対的な証。ベラが壁に刻んだこの言葉にこそ、監禁されていても諦めずに生きる、というベラの覚悟が表れているように感じました。

外見の変化だけではなく、忙しい日々の中で少し無理をしているときなど、自分が自分でないように感じることはありませんか? そんなときは深く呼吸をして、「私は私である」ことを確認してみるといいかもしれません。自分自身を見失わないために。

BACK NUMBER
FEATURED FILM
私が、生きる肌 [DVD]
監督/脚本:ペドロ・アルモドバル『オール・アバウト・マイ・マザー』『トーク・トゥ・ハー』『ボルベール〈帰郷〉』『抱擁のかけら』
製作/脚本:アグスティン・アルモドバル
音楽:アルベルト・イグレシアス『ボルベール〈帰郷〉』(06)、『抱擁のかけら』『裏切りのサーカス』
撮影:ホセ・ルイス・アルカイネ『バッド・エデュケーション』(04)、『ボルベール〈帰郷〉』

キャスト:
アントニオ・バンデラス(『スパイキッズ』シリーズ、『マスク・オブ・ゾロ』)
エレナ・アナヤ(『ヴァン・ヘルシング』『美しすぎる母』『シャッターラビリンス』)
マリサ・パレデス(『オール・アバウト・マイ・マザー』『ライフ・イズ・ビューティフル』『デビルズ・バックボーン』)
ジャン・コルネット(『ヴァン・ヘルシング』)

2014年9月3日リリース
発売元・販売元:松竹株式会社
©El Deseo
天才的な形成外科医ロベルは、画期的な人工皮膚の開発に没頭していた。彼が夢見るのは、かつて非業の死を遂げた最愛の妻を救えるはずだった“完璧な肌”を創造すること。あらゆる良心の呵責を失ったロベルは、監禁した“ある人物”を実験台にして開発中の人工皮膚を移植し、今は亡き妻そっくりの美女を創り上げていくのだった・・・。
PROFILE
映画・演劇ライター
八巻綾
Aya Yamaki
映画・演劇ライター。テレビ局にてミュージカル『フル・モンティ』や展覧会『ティム・バートン展』など、舞台・展覧会を中心としたイベントプロデューサーとして勤務した後、退職して関西に移住。八巻綾またはumisodachiの名前で映画・演劇レビューを中心にライター活動を開始。WEBサイト『めがね新聞』にてコラム【めがねと映画と舞台と】を連載中。
シェアする