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映画の言葉『子供はわかってあげない』藁谷友充のセリフより

「誰かに教わったことを また誰かに教えて そうやって世の中ってのはできてるんだな」

子供はわかってあげない
©2020「子供はわかってあげない」製作委員会 ©田島列島/講談社
映画の中の何気ない台詞が、
あなたにとっての特別な“言葉”となり、
世界を広げ、人生をちょっと豊かにしてくれるかもしれない。
そんな、映画の中の言葉を紹介します。

誰かに教わったことを また誰かに教えて
そうやって世の中ってのはできてるんだな

By 藁谷友充

『子供はわかってあげない』より

高校2年生の美波(上白石萌歌)の家は、幸せいっぱいのステップファミリー。実父(豊川悦司)とは両親の離婚によって幼いころに生き別れていました。美波は学校の屋上でもじくん(細田佳央太)という男子生徒と出会ったことをきっかけに、実父の消息を知りたいと思い立つのです。

もじくんの家は代々書道家という名家。子どもたちに習字を教えるもじくんに感心する美波に対して、もじくんは「教わったことは教えられる」と言います。ちゃんと教えてもらったことならば、自分も誰かに教えることができる。裏を返せば、教えてもらっていないことは、うまく教えることができないということです。

「誰かに教わったことを また誰かに教えて そうやって世の中ってのはできてるんだな」

これは、ついに再会できた美波の父親の言葉です。数日間だけ実父と一緒に暮らすことにした美波は、彼に泳ぎを教えます。幼い日に別れてから美波になにかを教えることができないままだった父は、娘から教えられることによって彼女を知っていったのでした。そして、「大丈夫、美波ならなにがあっても」という確信を得ます。それは、美波の今の家族が彼女を「そういう風に育ててくれたから」。泳ぎだけではありません。きっと、愛することや信じることも同じなのだと思います。

私はいま欧州で9歳の息子を育てています。言葉がまったくわからない彼は必死に頑張っていますが、親として心配は尽きません。迷いや後悔ばかりの日々の中で、この言葉に私はハッとさせられました。子育ての最終目標は、ちゃんと誰かに大切なことを教えられる大人に育てることのはず。私自身が不安になっていては本末転倒です。まずは自分を信じることを教えるために、全力で子どもを愛して信じながら見守っていかないといけませんよね。そう、美波の家族のように。

BACK NUMBER
INFORMATION
『子供はわかってあげない』
出演:上白石萌歌 細田佳央太
千葉雄大 古舘寛治 / 斉藤由貴 / 豊川悦司
監督:沖田修一
脚本:ふじきみつ彦 沖田修一
音楽:牛尾憲輔
原作:田島列島『子供はわかってあげない』(講談社モーニングKC刊)
企画・製作幹事:アミューズ
制作プロダクション:オフィス・シロウズ
配給:日活

全国公開中
公式サイト: https://agenai-movie.jp/
©2020「子供はわかってあげない」製作委員会 ©田島列島/講談社
高校2年、水泳部女子の美波は
ある日、書道部男子のもじくんとの運命の出会いをきっかけに
幼い頃に別れた父親の居所を探しあてる。
何やら怪しげな父にとまどいながらも、海辺の町で夏休みをいっしょに過ごすが…。
心地よい海風、爽やかに鳴る風鈴。…超能力!?そして、初めての恋に発狂しそう!

お気楽だけど、けっこう怒濤の展開。
誰にとっても、宝箱のような夏休み。はじまりはじまり~。
PROFILE
映画・演劇ライター
八巻綾
Aya Yamaki
映画・演劇ライター。テレビ局にてミュージカル『フル・モンティ』や展覧会『ティム・バートン展』など、舞台・展覧会を中心としたイベントプロデューサーとして勤務した後、退職して関西に移住。八巻綾またはumisodachiの名前で映画・演劇レビューを中心にライター活動を開始。WEBサイト『めがね新聞』にてコラム【めがねと映画と舞台と】を連載中。
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