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映画の言葉『梅切らぬバカ』山田珠子のセリフより

「お互いさまだろ?」

映画の言葉『梅切らぬバカ』
©2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト
映画の中の何気ない台詞が、
あなたにとっての特別な“言葉”となり、
世界を広げ、人生をちょっと豊かにしてくれるかもしれない。
そんな、映画の中の言葉を紹介します。

お互いさまだろ?

By 山田珠子

『梅切らぬバカ』より

中年期にある自閉症の息子・忠男(塚地武雅)と2人暮らしをしている母親・珠子(加賀まりこ)を中心に、地域コミュニティと共生する姿を描いた作品『梅切らぬバカ』。タイトルの由来である「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」(※)とは、それぞれの特性に従って対処する必要があることを表すことわざです。

年老いた珠子は、自分がいなくなった後のことも考えて忠男を近所のグループホームに入れることに決めます。しかし、こだわりが強い忠男はなかなか新生活に馴染めず、遂にはトラブルに巻き込まれてしまいます。引っ越してきたお隣の一家、近隣にある乗馬クラブ、グループホームに対する近所の人々の反発など、少しずつ絡み合う思惑や偏見を浮かび上がらせながら、物語は様々な人々が暮らすコミュニティの在り方を我々に問いかけます。

「お互いさまだろ?」

近隣住民に向けたグループホームの説明会。入居者に子どもが叩かれた件を根拠に不安を漏らす乗馬クラブのオーナーに対して、珠子はクラブからも馬が脱走したことがあると指摘した上で「お互いさまだろ?」と語りかけます。誰しもが誰かを頼り、頼られ、赦し、赦されながら暮らしています。忠男は多くの人の力を借りながら生きていて、実際に他者に迷惑をかけてしまいますが、それは皆おなじだと思いませんか?

さらに、本作はそんな「お互いさま」のもっと先までを見つめています。その人がそこにいる、ただそれだけで世界は広がり、人生は輝く。あなたもきっと、ただ存在するだけで誰かの人生を照らしているはず。観終わった後、私は家族やすべての知人に「ありがとう」と言いたくなりました。

※桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿…「樹木の剪定には、それぞれの木の特性に従って対処する必要があるという戒め。転じて、人との関わりにおいても、相手の性格や特徴を理解しようと向き合うことが大事であることを指す。」(『梅切らぬバカ』公式HPより)

BACK NUMBER
INFORMATION
『梅切らぬバカ』
出演:加賀まりこ 塚地武雅
渡辺いっけい 森口瑤子 斎藤汰鷹
林家正蔵 高島礼子
監督・脚本:和島香太郎
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
シネスイッチ銀座ほか、全国ロードショー中
©2021「梅切らぬバカ」フィルムプロジェクト
父親代わりの梅の木が運んでくれた“小さな奇跡”とは・・・?
山田珠子は、息子・忠男と二人暮らし。毎朝決まった時間に起床して、朝食をとり、決まった時間に家を出る。庭にある梅の木の枝は伸び放題で、隣の里村家からは苦情が届いていた。ある日、グループホームの案内を受けた珠子は、悩んだ末に忠男の入居を決める。しかし、初めて離れて暮らすことになった忠男は環境の変化に戸惑い、ホームを抜け出してしまう。そんな中、珠子は邪魔になる梅の木を切ることを決意するが・・・。
PROFILE
映画・演劇ライター
八巻綾
Aya Yamaki
映画・演劇ライター。テレビ局にてミュージカル『フル・モンティ』や展覧会『ティム・バートン展』など、舞台・展覧会を中心としたイベントプロデューサーとして勤務した後、退職して関西に移住。八巻綾またはumisodachiの名前で映画・演劇レビューを中心にライター活動を開始。WEBサイト『めがね新聞』にてコラム【めがねと映画と舞台と】を連載中。
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