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映画の言葉『人と仕事』志尊淳の言葉より

「わかろうとする、99%でも……99.9%でも近づこうとする、寄り添うことはできる」

©2021『人と仕事』製作委員会
映画の中の何気ない台詞が、
あなたにとっての特別な“言葉”となり、
世界を広げ、人生をちょっと豊かにしてくれるかもしれない。
そんな、映画の中の言葉を紹介します。

わかろうとする、99%でも……99.9%でも近づこうとする、寄り添うことはできる

By 志尊淳

『人と仕事』より

昨年から続くコロナ禍によって、世界中の人々の生活が変化しました。もちろんエンタメ業界も例外ではなく、多くの映画・舞台・イベントが延期や中止に追い込まれたのは皆さんご存じの通りです。

『人と仕事』は、撮影予定だった劇映画が新型コロナ感染症拡大の影響で制作中止せざるを得ない状況になったことにより、監督・俳優はそのままに、現在の日本を探るため新たに企画されたドキュメンタリー映画です。監督(森ガキ侑大)と出演予定だった二人の俳優(有村架純・志尊淳)がインタビューしていくのは、「エッセンシャルワーカー」や市井の人々。コロナ禍において彼らは何を見て、何を感じているのか? あらゆる立場で仕事をする人々の声に耳を傾けるうち、二人の俳優は「俳優」という仕事に思いを馳せるようになります。

彼らが辿りついたのは、「100%理解することはできない」という厳然たる事実でした。人間にはそれぞれの立場、苦悩、正義があります。真摯に話を聞けば聞くほど、分かった気になどなれないという誠実かつ謙虚な発見。それはまた、他人を一時的に演じる俳優という仕事も、突き詰めれば表面的なものにしかなり得ないのでは? という疑問へと繋がっていきます。

「わかろうとする、99%でも……99.9%でも近づこうとする、寄り添うことはできる」

これは、志尊淳さんの言葉です。俳優として、相手をわかろうとすることを諦めたくないと彼は言います。100%は無理だとしても、全力で99.9%まで理解しようと寄り添う努力はできる。完全には理解できないという事実を受け入れ、それでも極限まで寄り添いたいという彼の気づきは、個人や社会の分断が進んだコロナ禍において、一筋の光のように響きます。

否定し合うのではなく、想像し合える社会へ。相手の言葉に耳を傾け、相手を理解しようと99.9%の想像力を働かせて物語を生み出したいと願う彼の姿に、私は大きな希望を感じずにはいられませんでした。

BACK NUMBER
INFORMATION
『人と仕事』
出演:有村架純、志尊淳
監督:森ガキ侑大
企画/製作/エグゼクティブプロデューサー:河村光庸
音楽:岩代太郎
配給:スターサンズ/KADOKAWA
©2021『人と仕事』製作委員会
2人の“俳優”が、役ではなく、そのままの“自分”としてスクリーンに登場。有村架純と志尊淳が、保育士や農家などといった職業に就く人々を訪ね、体験し、演技ではない、ありのままの言葉や表情で、職場が直面する数々の問題に触れ、現代社会の陰影を浮き彫りにする。そして、「リモートでは出来ない、そこにいなければできない仕事」の価値を再認識していく有村と志尊は、そんな「エッセンシャルワーカー」達の姿を、次第に自分自身の仕事-俳優業-と重ねていく。
様々な人と仕事への眼差しがもたらす2人の変化。「人にとって、仕事とは?」果たして2人が見つけた答えとは一
PROFILE
映画・演劇ライター
八巻綾
Aya Yamaki
映画・演劇ライター。テレビ局にてミュージカル『フル・モンティ』や展覧会『ティム・バートン展』など、舞台・展覧会を中心としたイベントプロデューサーとして勤務した後、退職して関西に移住。八巻綾またはumisodachiの名前で映画・演劇レビューを中心にライター活動を開始。WEBサイト『めがね新聞』にてコラム【めがねと映画と舞台と】を連載中。
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