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映画の言葉『春に散る』黒木翔吾のセリフより

「今しかねぇ 今しかねぇんだよ」

『春に散る』
©2023映画『春に散る』製作委員会
映画の中の何気ない台詞が、
あなたにとっての特別な“言葉”となり、
世界を広げ、人生をちょっと豊かにしてくれるかもしれない。
そんな、映画の中の言葉を紹介します。

今しかねぇ 今しかねぇんだよ

By 黒木翔吾

『春に散る』より

私は運動が苦手ですが、ボクシングの試合を見るのは大好きです。1ラウンドたった3分という時間で繰り広げられる本気と本気のぶつかり合い。相手の一挙手一投足に全神経を集中し、身体を凄まじいスピードでコントロールしていく様子は1秒たりとも目が離せない迫力があり、他の何物にも代え難い、まさに火花が散るような刹那の輝きを放っていると感じるからです。

『春に散る』は、かつてアメリカに渡り、挫折を味わって別の人生を歩んだ後に帰国した元ボクサー・広岡(佐藤浩市)と、若くして理不尽な現実への憤りから一度は引退した若きボクサー・黒木(横浜流星)が、共に大きな目標に向かって進んでいく姿を描いた作品です。広岡の実力を街中で目の当たりにし、自分に教えてほしいと押しかけ懇願し続ける黒木。頑なに拒み続ける広岡に対し、黒木は「この先中途半端に生きんなら 死んでんのと同じだろ?」と問いかけます。

「今しかねぇ 今しかねぇんだよ」

この黒木の言葉が広岡の心を動かし、2人は再びボクシングへの道を邁進していきます。

そして、困難に見舞われながらも挑戦を諦めない黒木の姿は、それぞれに挫折を味わってきた周囲の人々の心をも動かしていきます。「人生は何度でもやり直しがきく」という励ましの言葉は真理ですが、私がボクシングの試合に刹那の輝きを感じるように、「今この瞬間」にしか生まれない、掴めないものがあるのもまた真理。だからこそ、黒木の闘いは胸を打ち、そこに人々は未来への希望を感じることができるのではないでしょうか。拳から繰り出される圧倒的な熱量と大いなる希望に、あなたもぜひ胸を焦がしてください。

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INFORMATION
『春に散る』
出演:佐藤浩市 横浜流星
橋本環奈 / 坂東龍汰 松浦慎一郎 尚玄 奥野瑛太 坂井真紀 小澤征悦 / 片岡鶴太郎 哀川翔
窪田正孝 山口智子
監督:瀬々敬久
原作:沢木耕太郎『春に散る』(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
製作:映画『春に散る』製作委員会 
制作プロダクション:ツインズジャパン
配給:ギャガ

2023年8月25日公開
©2023映画『春に散る』製作委員会
40年ぶりに故郷の地を踏んだ、元ボクサーの広岡仁一(佐藤浩市)。引退を決めたアメリカで事業を興し成功を収めたが、不完全燃焼の心を抱えて突然帰国したのだ。かつて所属したジムを訪れ、かつて広岡に恋心を抱き、今は亡き父から会長の座を継いだ令子(山口智子)に挨拶した広岡は、今はすっかり落ちぶれたという二人の仲間に会いに行く。そんな広岡の前に不公平な判定負けに怒り、一度はボクシングをやめた黒木翔吾(横浜流星)が現れ、広岡の指導を受けたいと懇願する。そこへ広岡の姪の佳菜子(橋本環奈)も加わり不思議な共同生活が始まった。やがて翔吾をチャンピオンにするという広岡の情熱は、翔吾はもちろん一度は夢を諦めた周りの人々を巻き込んでいく。果たして、それぞれが命をかけて始めた新たな人生の行方は——?
PROFILE
映画・演劇ライター
八巻綾
Aya Yamaki
映画・演劇ライター。テレビ局にてミュージカル『フル・モンティ』や展覧会『ティム・バートン展』など、舞台・展覧会を中心としたイベントプロデューサーとして勤務した後、退職して関西に移住。八巻綾またはumisodachiの名前で映画・演劇レビューを中心にライター活動を開始。WEBサイト『めがね新聞』にてコラム【めがねと映画と舞台と】を連載中。
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