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映画の言葉『夜明けのすべて』山添くんのセリフより

「男女間であろうとも 苦手な人であろうとも 助けられることはある」

©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会
映画の中の何気ない台詞が、
あなたにとっての特別な“言葉”となり、
世界を広げ、人生をちょっと豊かにしてくれるかもしれない。
そんな、映画の中の言葉を紹介します。

男女間であろうとも
苦手な人であろうとも
助けられることはある

By 山添くん

『夜明けのすべて』より

もうすぐ息子が小学校を卒業し、中学生になります。人はこのように何度も新たなコミュニティに足を踏み入れ、偶然出会った人たちと関係を築いていかなければいけません。4月からの大きな変化を前にして、不安に思っている人もいるのではないでしょうか。

『夜明けのすべて』もまた、そんな風に偶然同じコミュニティで出会った人々のお話です。症状の激しいPMSに苦しむ藤沢さん(上白石萌音)と、パニック障害に苦しむ山添くん(松村北斗)は科学工作玩具の会社、栗田科学で同僚になりますが、アットホームな職場の雰囲気に居心地の悪さを感じている山添くんは打ち解けようとせず、藤沢さんもまたそんな山添くんに対して距離を感じていました。しかし、藤沢さんが山添くんの処方薬を見つけたことをきっかけに、ふたりの関係は少しずつ変化していきます。

山添くんの病気を知り、手助けしたいと考えた藤沢さん。藤沢さんの病気を知り、理解しようと思った山添くん。ふたりはお互いに少しずつ「おせっかい」を重ねながら距離を縮めていきます。いつしかそんな関係に居心地の良さを感じるようになった山添くんは、「明らかなことがひとつだけわかりました」と前置きした上で、こう呟きます。

「男女間であろうとも 苦手な人であろうとも 助けられることはある」

藤沢さんも山添くんも、自分自身の病気を完全に克服する術は持っていません。しかし、「相手のことを助けることはできるのではないか」と思い立ち、行動したことで自分自身も救われていく……本作にはそんな優しい変化の連鎖が満ちています。

彼らの言動はどこまでも平凡で、いわゆる「普通の人」の延長線上にあります。しかし、同じことの繰り返しに見える平凡な日々であっても、まったく同じ1日など存在しません。本作に登場する「この宇宙には変わらないものなど存在しないのかもしれません」という言葉の通り、明日は必ず今日とは違う日がやってきます。「変化」はときに不安を掻き立てるものですが、藤沢さんと山添くんの関係も「変化」があって初めて実現したものです。新たな場所に足を踏み入れたり、居心地の悪さを感じたりしたときは、誰かのために少し「おせっかい」をしてみるのもいいかもしれません。誰にでも「助けられることはある」という山添くんの言葉を思い出しながら。

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BACK NUMBER
FEATURED FILM
出演:
松村北斗 上白石萌音 
渋川清彦 芋生悠 藤間爽子 久保田磨希 足立智充
りょう 光石研
原作:瀬尾まいこ『夜明けのすべて』(水鈴社/文春文庫刊)
監督:三宅唱
脚本:和田清人 三宅唱
音楽:Hi’Spec
製作:「夜明けのすべて」製作委員会
企画・制作:ホリプロ
制作プロダクション:ザフール
配給・宣伝:バンダイナムコフィルムワークス=アスミック・エース
2月9日(金)ロードショー
©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会
「出会うことができて、よかった」
人生は想像以上に大変だけど、光だってある―

月に一度、PMS(月経前症候群)でイライラが抑えられなくなる藤沢さんはある日、同僚・山添くんのとある小さな行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。だが、転職してきたばかりだというのに、やる気が無さそうに見えていた山添くんもまたパニック障害を抱えていて、様々なことをあきらめ、生きがいも気力も失っていたのだった。職場の人たちの理解に支えられながら、友達でも恋人でもないけれど、どこか同志のような特別な気持ちが芽生えていく二人。いつしか、自分の症状は改善されなくても、相手を助けることはできるのではないかと思うようになる。
PROFILE
映画・演劇ライター
八巻綾
Aya Yamaki
映画・演劇ライター。テレビ局にてミュージカル『フル・モンティ』や展覧会『ティム・バートン展』など、舞台・展覧会を中心としたイベントプロデューサーとして勤務した後、退職して関西に移住。八巻綾またはumisodachiの名前で映画・演劇レビューを中心にライター活動を開始。WEBサイト『めがね新聞』にてコラム【めがねと映画と舞台と】を連載中。
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