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映画の言葉『二十四の瞳』大石久子のセリフより

「あんなにかわいい瞳を私、どうしても濁しちゃいけないと思ったわ」

©1954/2007 松竹株式会社
映画の中の何気ない台詞が、
あなたにとっての特別な“言葉”となり、
世界を広げ、人生をちょっと豊かにしてくれるかもしれない。
そんな、映画の中の言葉を紹介します。

あんなにかわいい瞳を私、
どうしても濁しちゃいけないと思ったわ

By 大石久子

『二十四の瞳』

瀬戸内海に浮かぶ小豆島の分教場を舞台に、主人公の大石先生(高峰秀子)と12人の子供たちの交流が描かれる木下惠介監督の名作映画『二十四の瞳』。今作は、昭和3年から終戦の翌年までの激動の時代に置かれた人々を、美しい自然とともに映し出します。

赴任した当初、大石先生は田舎の古い慣習に苦労します。当時では珍しかった洋服姿や自転車での通勤などを、村の人たちから揶揄され、なかなかなじむことができないでいました。そのことに悩み、母に打ち明ける大石先生。しかし、そんな時でも頭に浮かぶのは、自分を見つめる12人の子供たちの瞳です。

「あんなにかわいい瞳を私、どうしても濁しちゃいけないと思ったわ」

初めて教壇に立ち、それぞれの顔を見ながら12人の名前を呼んだあの時間。それは、大石先生を支える道しるべとなったのです。その後、貧困や戦争の波が、容赦なく子供たちに襲いかかります。奉公に出される子、学校に行けなくなる子、家の都合で進学できない子、兵隊を志願する子。誰もが先が見えない不安に駆られる中でも、大石先生は変わらず子どもたちのそばに寄り添い続けます。

「将来への希望」を書く授業で、希望が持てないから書けないと泣き出してしまう生徒には、「先生もどうしていいか分からない、その代わり、泣きたい時はいつでも一緒に泣いたげる」とその子を抱きしめながら泣き、肺病を患ったことで家族に疎まれ、「苦労しました」と泣き崩れながらお見舞いに来た先生へ気持ちを吐露する生徒には、「そうね、苦労したでしょうね…」と一緒に声をあげて泣きます。

大石先生が子どもたちに名言のような言葉を言うことはありません。ただ、子供一人ひとりの生活と気持ちを考え、寄り添った会話がそこにはあります。

大きな変化の渦中では、未来が見えづらく、誰もが不安になることでしょう。そんな時こそ、「他人を想像する力」が求められるのではないでしょうか。年齢や環境、価値観の違いを超えて、相手のことを考え、寄り添い通じ合う。そのことこそ、困難な時代を乗り越えていく上で忘れてはならないと、大石先生の姿が気づかせてくれたように思います。

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FEATURED FILM
二十四の瞳
監督・脚色:木下惠介
原作:壺井栄
撮影:楠田浩之
音楽:木下忠司
出演:高峰秀子/月丘夢路/田村高廣/小林トシ子/笠智衆/浪花千栄子/明石潮
©1954/2007 松竹株式会社
昭和3年、小豆島の分教場にひとりの新任女性教師・大石先生が赴任してきた。12人の教え子たちはみな大石先生を慕い、彼女もまたこの子たちの美しい瞳を濁してはいけないと願う。しかし、日本中を覆う貧困と戦争の波は、やがて否応なく子供たちの運命を大きく狂わせていく……。       
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