PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば

映画の言葉『カモン カモン』ジョニーとジェシーのセリフより

「悪かった」
「僕もごめんね」

『カモン カモン』
© 2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.
映画の中の何気ない台詞が、
あなたにとっての特別な“言葉”となり、
世界を広げ、人生をちょっと豊かにしてくれるかもしれない。
そんな、映画の中の言葉を紹介します。

「悪かった」
「僕もごめんね」

ジョニーとジェシーの言葉

『カモン カモン』より

10歳の息子と暮らしていると、お互いに意地を張り合い喧嘩になることがあります。先日もそんな事態に陥りました。泣き出した息子が「もうめちゃくちゃだよ!」と言った瞬間、やっと私は少し冷静になれました。お恥ずかしながら、私の子育てではこんな「めちゃくちゃ」がけっこう起こります。『カモン カモン』はそんな私に解決のヒントをくれる映画でした。

主人公ジョニー(ホアキン・フェニックス)はNY在住のラジオジャーナリスト。全米の子どもたちに未来について聞いています。久しぶりに会う9歳の甥っ子ジェシー(ウディ・ノーマン)をしばらく預かることになったジョニーは、少し風変わりな甥に戸惑うものの、仕事のためにNYに彼を連れて戻ることにします。

ジャーナリストとして、ジョニーは子どもひとりひとりにマイクを向けます。その行為は「あなたの言葉に耳を傾けます」という意志表示に他なりません。一方で、甥のジェシーはインタビューされることを拒否。機材のマイクに興味を持ち、あらゆるものの音を録音することに夢中です。もちろんその矛先はジョニーにも向かうのでした。

「なぜ結婚してないの?」「なぜ独りぼっちなの?」……容赦ないジェシーの好奇心は、ジョニーに突き刺ささります。ジェシーとの関りの中で、他人の子どもにはマイクを向けるのに、甥であるジェシーには真剣に向き合わず、自分の声には耳を塞いできたことを痛感するジョニー。子どもにごまかしは効きません。

「悪かった」(ジョニー)
「僕もごめんね」(ジェシー)

これは、ふたりの間に「めちゃくちゃ」が起きた後の会話です。ジェシーを自分とは違うひとりの人間として尊重し、彼の言葉と気持ちに耳を傾け、さらに自分自身の気持ちに向き合った上で、心から出てきた謝罪。チグハグだったふたりの心がカッチリと向き合い、もう僕たちは大丈夫だねと微笑みあっているような最高の「ごめんね」だと感じました。

本作に登場する子どもたちへのインタビューは、台本ではなくリアルです。彼らは未来や大人に対して色々な考えを持っていますが、シニカルな視点を持っている子も含めて全員が未来に希望を感じていたのが印象的でした。自分自身を知り、相手と自分の違いを受け入れ、真っ直ぐに相手に向き合うこと。それは子育てのヒントである以上に、希望ある未来へのヒントなのだと思います。

PINTSCOPEでは隔週で「映画の言葉」をお届けしています。
ぜひ、Twitter公式アカウントをフォローして「心の一本」を見つけに来てください。

あわせて読みたい
BACK NUMBER
INFORMATION
『カモン カモン』
監督・脚本:マイク・ミルズ『人生はビギナーズ』『20 センチュリー・ウーマン』
出演:ホアキン・フェニックス、ウディ・ノーマン、ギャビー・ホフマン
モリー・ウェブスター、ジャブーキー・ヤング=ホワイト
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
日本語字幕:松浦美奈

TOHO シネマズ 日比谷ほか、全国ロードショー中
Instagram: @cmoncmonmoviejp
© 2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.
NYでラジオジャーナリストとして1人で暮らすジョニーは、妹から頼まれ、9歳の甥・ジェシーの面倒を数日間みることに。LAの妹の家で突然始まった共同生活は、戸惑いの連続。好奇心旺盛なジェシーは、ジョニーのぎこちない兄妹関係やいまだ独身でいる理由、自分の父親の病気に関する疑問をストレートに投げかけ、ジョニーを困らせる一方で、ジョニーの仕事や録音機材に興味を示し、二人は次第に距離を縮めていく。仕事のためNYに戻ることになったジョニーは、ジェシーを連れて行くことを決めるが…
PROFILE
映画・演劇ライター
八巻綾
Aya Yamaki
映画・演劇ライター。テレビ局にてミュージカル『フル・モンティ』や展覧会『ティム・バートン展』など、舞台・展覧会を中心としたイベントプロデューサーとして勤務した後、退職して関西に移住。八巻綾またはumisodachiの名前で映画・演劇レビューを中心にライター活動を開始。WEBサイト『めがね新聞』にてコラム【めがねと映画と舞台と】を連載中。
シェアする